ディーリアス 春初めてのカッコウの声を聴いて:ある境地から

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On Hearing the First Cuckoo in Spring

ディーリアス 小管弦楽のための2つの小品より「春初めてのカッコウの声を聴いて」


フロリダ組曲以来となる、イギリスの作曲家ディーリアスの作品を取り上げよう。僕はプロフィールにも書いてあるとおり、英国のクラシック音楽が大好きなのだが、ディーリアスは英国作曲家としては異端に分類されることも多い作曲家だ。
異端と言われるということは、正統派がいるということだろうが、英国音楽史の中で正統派などと言えるのは一体誰なのだろうか。パーセルやヘンデルは置いておくとして、エルガーを正統派イギリス音楽の始祖とするなら、エルガー以降正統派などほぼ絶滅していると言っていい。ヴォーン=ウィリアムズやブリス、ホルスト、スタンフォード、皆異端者だろう。
そんな、いつも異端児扱いされるディーリアスの残した音楽の中で、この「春初めてのカッコウの声を聴いて」は、最も「典型的なイギリス音楽」などと説明されることも少なくない。
僕はまあまあたくさんの英国クラシック音楽を好んで聞いてきたけれども、伝統的なドイツ音楽や、フランス印象派、ロシア・ソビエト音楽などと比べて、英国らしさというものは非常に掴みにくい。
そもそも、この曲のモチーフになっている旋律は、ノルウェー民謡である。グリーグと親交の深かったディーリアスは、グリーグのピアノ曲「伝承によるノルウェー民謡」の中の“In Ola Valley”という曲を取り上げ、ディーリアスならではの繊細な画法で描き変えたのだ。
それでも英国らしいなどと言われるのだから、この曲は本当の名曲と言われるべきものだろう。
6,7分の管弦楽曲で、小編成オーケストラのための2曲の小品のうちの1曲である。フルート、オーボエ、クラリネット2、バスーン2、ホルン2と弦楽という楽器編成。もう1曲は「川面の夏の夜」という曲。


そもそもディーリアスは、英国で生まれたとはいえ、アメリカに渡ったり、フランスに住むようになったりと、あまり英国暮らしが多い人ではない。この曲は1912年に作曲されたものだが、このときにはフランスに住んでいた。
当時梅毒に冒されていたディーリアスは、何を思ってこの曲を書いたのだろう。病魔と闘うような気概ある音楽ではないが、50歳のディーリアスには、何かひとつ、芸術や音楽、はたまた人生といったものか、彼の中の美学における何か達観した境地から、この作品を描き出したように思えるのだ。
音がなった瞬間、まるで陽の光が田園を照らしだすような場面に遭遇する。クラリネットはカッコウの声を歌い、その歌は発展して弦楽器に受け継がれていく。
この音楽において、弦楽器はまるで時間や人生の累積ということを表しているようだ。節目節目で、オーボエはその喜び悲しみを歌う。カッコウの声はその節目を強調して示す。この鳥の音がどんな感情として把握されるかは、聴く者の生きた時間や、彼らが振り返ってみた己の人生に委ねられるのだ。
そんな人間や人生にとって非常に重要なエッセンスを、より大きな、自然という主題で奏でるのが、この作品の本当に素晴らしい部分だろう。人間にとっての自然というもの――春初めてのカッコウの声を聴くというシーンを通して描かれているものは、こうもはかなく、そして美しいものだったのか! 自然、そこにあるものが、そこにあるということに見出した美!
この曲が英国らしさを象徴するほどのものだとしたら、英国らしさとは一体どこにあるものなのだろう。色即是空とはまた違うだろうが、この牧歌的で静謐な音楽は、人生や芸術における何かしらの真理を描いているように思う。達観したようなある境地から、その真理に触れたとき、英国らしさを理解することに一歩近づくのではないか。

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Frederick Delius,David Lloyd-Jones,Royal Scottish National Orchestra

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“ディーリアス 春初めてのカッコウの声を聴いて:ある境地から” への1件の返信

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