高田三郎 混声合唱組曲「内なる遠さ」:限りない問い

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高田三郎 混声合唱組曲「内なる遠さ」


ベンジャミン・ブリテンと共に、実は今年2013年が生誕100周年という、記念すべき年を迎える日本の作曲家、高田三郎。合唱作品が特に有名であり、多くの合唱団が彼の作品を愛唱しているし、コンクールの課題曲として取り上げられることも多い。敬虔なクリスチャンであり、彼が作曲した日本語の典礼聖歌は200曲を超える。
彼の合唱作品以外が演奏されることは今日では殆ど無いので、ここでも合唱曲を紹介しようと思うのだが、僕もそれほど合唱に詳しい訳ではない。ということで、あまり深い話ができないのはご了承いただきたい。
しかし、高田三郎の作品が大好きだという気持ちはいわゆる合唱ファンの方々にも劣らないつもりだ。敢えてこのクラシック音楽のブログで取り上げるのにはちゃんと意味がある。
高田が合唱作品に力を入れるようになってきた頃、NHKから合唱曲を委嘱され、そのときに高野喜久雄という新潟は佐渡出身の詩人と出会う。高野の詩によるこの委嘱作品、混声合唱組曲「わたしの願い」が1961年に発表されてから、高田は高野の詩による合唱作品を多く手がけるようになる。
中でも一番ポピュラーなものが合唱組曲「水のいのち」であり、本年もたくさんの合唱団が取り上げていたようだ。
今回紹介する混声合唱組曲「内なる遠さ」は5曲からなる組曲であり、他の高田/高野作品と比べても、とりわけ詩の内容の深さが際立つ作品である。
また、詩の奥深さに加えて、特に第1曲の「飛翔―白鷺」の伴奏の美しさと、第3曲「合掌―さる」の胸が苦しくなるような迫真感に、僕は一撃でやられてしまった。歌詞はこちらから。


「内なる遠さ」という言葉を聞いて、まず思い浮かぶものは何だろうか。人間の深奥なるもの。音楽であれば、僕は先ずシューベルトを思い出す。彼の音楽は内気で、そしてどこまでも広がっていくからだ。高野喜久雄は、自身でこの詩について、「どの生もみな、それぞれの内なる遠さへの限りない問いであり、応答である」と書いている。
各曲の題は、「飛翔―白鷺」、「崖の上―かもしか」、「合掌―さる」、「燃えるもの―蜘蛛」、「己れを光に―深海魚」と、みな生き物がテーマになっている。どの“生”も、聴く者に、自分自身の生の“内なる遠さ”を考えさせてくれる。
第1曲の「飛翔―白鷺」では、白鷺が雪に還され、また雪から生まれる様が描かれている。詩に対応するように、ピアノの響きが幻想的だ。調性的な旋律に、冬の澄んだ空気のような、しかしどこか非現実的な、アルペジオのオブリガード。白鷺が幾度となく甦り、舞い飛ぶ風景が、誰の心の中にもあるということを、この幻想的なピアノが示唆している。
短いながらも劇的な第3曲の「合掌―さる」は、恐ろしい程の緊張感に満ちている。子連れのさるが、さるうちに銃口を向けられたときに見せる、手をすりあわせた「合掌」。必死の瞬間の生がリアルに描かれ、思わず息を呑む。
もちろん、「崖の上―かもしか」、「燃えるもの―蜘蛛」、「己れを光に―深海魚」も、どれも素晴らしい音楽である。5曲とも、私たちに、生の限りない問いを、言わば本物の“生”の深さ、遠さを知らしめす。
こういう主題は、例えばベートーヴェンの音楽とだって通じるものがあるだろうし、もっと言えば、音楽そのものについて問い直すものかもしれない。最後に、「己れを光に―深海魚」のクライマックス部分を抜粋して記しておこう。


今はもう眼も耳もいらなくなって
小さな「しかし」も
小さな「なぜ」もいらなくなって
ひたすらおまえは降りて行く
水の深さに釣り合ういのち
千億の水圧を辛くもこらえ
はげしく己れを光に変えて
おお 光に

日本合唱曲全集「ひたすらな道」高田三郎作品集(2) 日本合唱曲全集「ひたすらな道」高田三郎作品集(2)
合唱,豊中混声合唱団,盛岡コメット混声合唱団,高田三郎,高野喜久雄,水野朋子,樋口洋子

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