ヴュストホフ スヘルデ川:なんでも屋さんのオーケストラ曲

Spread the love

クラウス・ヴュストホフ:交響詩集


ヴュストホフ スヘルデ川


以前ラジオでレキシか誰かがリクエストナンバーの米津玄師のlemonについて「レモンという曲にハズレ無し!」と言って笑いを取っていた。もちろんこのコメントを真剣に受け止める必要はないが、僕は随分以前から言っている「川をテーマにしたクラシックにハズレ無し」というのは、そろそろ世間的にも常識になって欲しいと思っている。
まあ冗談はともかく、このブログでも美しく青きドナウシューマンのライングローフェのミシシッピ、マニアックなところではアッテルベリの交響詩「川」ピアノ協奏曲「黄河」、あるいはディーリアスのフロリダ組曲の第2曲「河畔にて」などを取り上げたが、本当にどれも素晴らしい音楽ばかりだ。あ、大事な大事なモルダウを書いてない!けど「わが祖国」全部について書くのは大変なんだよなあ。後回し後回し。
ということで、ついに満を持して登場するのは、あの大作曲家による有名な川の曲、そう!クラウス・ヴュストホフのスヘルデ川である!
誰?そんで何処の川?という人がほとんどだと思うので説明しよう。クラウス・ヴュストホフ(1922-)はベルリン生まれの作曲家で、10代の頃はショパンの孫弟子ラウル・コチャルスキに学びつつも、トミー・ドーシー(tb)やチック・ウェッブ(dr)、ベニー・グッドマン(cl)、エラ・フィッツジェラルド(vo)、ルイ・アームストロング(tp,vo)らのジャズミュージシャンに傾倒。1941年に東部戦線に送られ、ソ連軍の捕虜となるも収容所で作曲家ハンス・フォークトから対位法を学ぶ。1948年に解放され、この頃には既にクラシックもポップスもいけるオールラウンダーな作曲家になっていたという、変わった経歴の人物だ。
その活躍ぶりは錚々たるもので、芸術音楽から商業音楽まで多岐に渡り、指揮者やピアニストとしての活動からテレビ・ラジオ出演、コンクールの企画や教科書作成、そして長くGEMA(ドイツの音楽著作権管理団体)のチェアマンを務めている。
作曲家としては、オペラやミュージカル、管弦楽、合唱、室内楽、吹奏楽、マンドリンオーケストラのための作品に加え、ジャズや映画音楽など、とにかく何でもござれのすごい人なのだ。
今回紹介する「スヘルデ川」は管弦楽作品だが、日本でヴュストホフの名前を最もよく見かけるのはマンドリンオーケストラ界隈で、3つのギターとマンドリンオーケストラのための「サンバ協奏曲」は国内でもしばしば実演の機会がある。これも良い曲だ。


さて、スヘルデ川とは、フランス・ベルギー・オランダを流れる川で、軍オタなら二次大戦の「スヘルデの戦い」、自転車オタなら「スヘルデプライス」というレースで名前を見る人もいるかもしれない。ちなみに僕は全然知らない。
1956年にブリュッセルのラジオ局のコンペのために作曲したもので、急緩急の3楽章構成。それぞれが4,5分で鑑賞もしやすい。気軽に聴ける長さで、曲自体も軽音楽とクラシックの間の子のようで、楽しく聴ける作品だ。
1楽章はFahrt auf der Westerschelde (Ouvertüre)、西スヘルデ川を行く(序曲)とでも訳せばいいのかしら。ニ長調の楽しい弦楽と金管ファンファーレ、ティンパニが幕を開け、冒険の始まり。口笛のような木管も心地よい。レズニチェクの歌劇「ドンナ・ディアナ」序曲からインスピレーションを受けたそうだ。納得。しかしこの名序曲よりももっともっとポップである。espressivo e legatoの流麗な弦奏も、定番な感じはあるが純粋に美しい。
2楽章Im Mondlicht vor Anker (Nocturno)、月夜に投錨す(夜想曲)と訳そう、これは我ながら上手く訳せたんじゃないの? ヴィブラフォンとハープに浮かぶフルートの独奏、和声も印象派チックだ。変ロ長調でゆっくりした8分の6拍子、ドビュッシーの管弦楽曲を意識しているのだろう。幻想的な月明かりの夜の河畔を想像しよう。
3楽章Antwerpen (Rondo-Finale)、これはそのまんま、アントワープ(ロンド・フィナーレ)。スヘルデ川は北上してアントワープを通りると西へ曲がってすぐに北海に入る。河口はオランダだがほとんどオランダは通っていないのだ。よってアントワープは終着地のような扱い。ハ長調で愉快なリズム、テンポ、シロフォンもカチカチ鳴って、まるでアメリカの作曲家のような、もっと言えばミシシッピ組曲のような……あるいは「パリのアメリカ人」風の音楽。金管や打楽器がユーモラスな音楽を奏で、ストリングスが妙な哀愁あるテーマを弾くところや、ジャズ風の和音も含め、グローフェやガーシュウィンを意識しているのは間違いないだろう。ヴュストホフの「音楽何でもできます」というオールマイティさが現れている。

クラウス・ヴュストホフ:交響詩集
マルティナ・ゲデック ウルリッヒ・ケルン フランクフルト・ブランデンブルク州立管弦楽団
KLANGLOGO (RONDEAU) (2018-05-21)

ここまで読んでくださった方、この文章はお役に立ちましたか? もしよろしければ、焼き芋のショパン、じゃなくて干し芋のリストを見ていただけますか? ブログ著者を応援してくださる方、まるでルドルフ大公のようなパトロンになってくださる方、なにとぞお恵みを……。アマギフ15円から送れます、皆様の個人情報が僕に通知されることはありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございます。励みになります。ほしいものリストはこちら

Author: funapee(Twitter)
都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more

にほんブログ村 クラシックブログへ にほんブログ村 クラシックブログ クラシック音楽鑑賞へ 
↑もっとちゃんとしたクラシック音楽鑑賞記事を読みたい方は上のリンクへどうぞ。たくさんありますよ。

Spread the love

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

*

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください