D・ゴーティエ 神々の修辞学
オヤマダアツシ氏が新日フィル定期のパンフに、学生の頃「マニアック合戦」と称して、友人たちとマニアックな録音を持ち寄り「これ知ってる?知らないよね」という態度で自慢げに交換し合い、知識を高めてたという文を書いており、これぞオタクと膝を打った。好奇心は偉大なる教師だと語られていた。
大体オタクは自分が知らないのが悔しいので、知ったかぶりでもなんでもしてその場をしのぎ、後で必死に調べたりする習性があるのだが、これから取り上げる曲、あるいは作曲家について、僕は正直なところ全く知らなかった。だから調べて書き残しておこうと、そういうわけである。
ではなぜ、この曲を取り上げようと思ったかというと、ズバリ、タイトルがかっこいいからだ!いや、かっこいいですよね?「神々の修辞学」ですよ?何それ。中二病真っ盛りという雰囲気の痛さがある。これはかっこいい。
まず「神々」、さらに「修辞学」、レトリックですよ。黄昏だっていいけど、修辞学ってのもまた中二病心をくすぐるねえ。横文字もいいですよ、“La rhétorique des dieux”、いいじゃないですか。「ラ・レトリーク・デ・デュー」ですよ。
さて、ひとしきりどうでもいいことを書いたので、少し真面目に書くと、リュートのための作品で、ドニ・ゴーティエ(1603-1672)というフランスのリュート奏者が作った。この辺りの作曲家を取り上げるのは僕にしては珍しい。同時代だとヘンリー・パーセル(1659-1695)くらい。もう少し前ならクレマン・ジャヌカン(1485頃-1558)も取り上げた。
このブログではバロック以降に偏って書いているが、実は聴くだけならルネサンスなども多々聴く。合唱曲や、それこそリュートなどの器楽も。BGMのように適当に流しても邪魔にならないのがいい。子どもが小さいとね、環境音楽ではないけど、そういう風に使える曲もよく聴くようになった。
1652年の作で、独奏リュートのための12のギリシア風旋法を用いた組曲集である。といっても、そこまでギリシア旋法に厳格に則ったものではない(とWikipediaとかに書いてあったのであって、僕だって別にギリシアの旋法に詳しい訳ではない)。しかし各々の曲名はギリシャ神話から取ったりと、関連は大きそうだ。ギリシャ神話ならそれなりにわかるぞ、実は僕はこう見えても古代ギリシアの研究で大学院出た男である。
ざっと12の組曲を概観する。第1組曲ドリア旋法、2曲目に「パエトンの墜落」がある。第2組曲ヒポドリア旋法、アンドロメダやアタランテといった女神の名が付いたアルマンドがある。第3組曲フリギア旋法、クレオパトラの名がある。第4組曲ヒポフリギア旋法、アルテミスの名がある。第5組曲リディア旋法は曲なしだそうだ。どういうことかしら。第6組曲ヒポリディア旋法、副題のないジーグやクーラントで構成されている。第7組曲ミクソリディア旋法、「雄弁なるアポロン」や「森のディアーヌ」とある。後者は同名のドビュッシーのカンタータで知っている人も多いだろう。第8組曲ヒポミクソリディア旋法、3曲のみ。第9組曲エオリア旋法、これも3曲。第10組曲ヒポエオリア旋法は2曲しかない。第11組曲イオニア旋法、ここでオルフェウスが登場。第12組曲ヒポイオニア旋法、ナルキッソスやユノ(ヘラ)の名がある。
ざっと挙げて以上の通り。現代の奏者で、12の組曲集を全体として録音する奏者は知らないが、抜粋、あるいは副題付きの曲のみを取り上げることは多いようだ。
あまり日本語で書いてある情報は知らないけれど、某日本人作曲家がブログで書いていることによると、D・ゴーティエは存命時かなり有名だったそうだが、その某氏に言わせれば小物だそうで、おじのE・ゴーティエの方が断然上だそう。ほー。それも全然知らんわ。
どうやらエヌモン・ゴーティエという、叔父だが従兄弟だが知らんけど、もう1人ゴーティエというリュートの音楽家がいるらしく、当時からよく間違えられていたらしい。現在入手できる音盤でも、両者の曲が併録されているものもある。正直、僕にはどっちが上とかの判断はできない。そもそも自分の中に基準がない。しかし、この曲集は聴いていて良い気分だ。リュートの音の響き、あのレスピーギの曲が名曲なのは違いないが、それよりもっとシンプルで、穏やかで、自然体で……作曲当時もそう受け取る人がいたのか知らないものの、少なくとも現代を生き、バロック以降の音楽をたくさん聴く、ゴーティエ初心者の自分にとってはそんな印象である。
でも良かった、このタイトルでなければ聴くことはなかったかもしれない。たまたま「なんだこの曲名は」と思って聴いた、運命の出会い。「神々の修辞学」でなかったら、D・ゴーティエもE・ゴーティエも知らずに人生を終えていたかもしれない。もしこのブログを読んでくれる方で、リュートも何も知らなくても、たまたまこの曲を知り、興味を持ってもらい、実際に聴くに至った人がいたら嬉しい。 好奇心は偉大なる教師なのだ。
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都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more