カステルヌオーヴォ=テデスコ ギター協奏曲第1番 ニ長調 作品99
ギター協奏曲といえば、まず挙がるのはロドリーゴのアランフェス協奏曲。では次は?となると、このマリオ・カステルヌオーヴォ=テデスコ(1895-1968)の協奏曲を挙げるギターファン、協奏曲ファンは多いことだろう。
イタリアのフィレンツェに生まれ、若くして活躍したユダヤ系の作曲家で、映画音楽などをはじめ多くの作品を生み出した。
1932年、テデスコはスペインの有名ギタリストであるアンドレス・セゴビアと出会い、初のギター曲となる「世紀をわたる変奏曲 作品71」を作曲する。1938年、ムッソリーニによる人種差別政策が始まり、ユダヤ系であるテデスコも亡命を余儀なくされるが、クリスマス休暇でフィレンツェに来ていたセゴビアによる励ましや、すでにニューヨーク・フィルの主席指揮者であったトスカニーニの助けを得て、1939年にアメリカはハリウッドに亡命する。
渡米して最初に書くのはギター協奏曲だとセゴビアに約束し、さっそく作曲を始めるテデスコ。南米に渡ったセゴビアに楽譜を送り、1939年10月29日、ランベルト・ヴァルディ指揮SODRE響(ウルグアイ放送オケ)とともに初演を行った。アメリカにいたテデスコは聴くことはできず、ロサンゼルスで演奏を聴くことができたのは初演から7年経ってからであった。
初めてこの曲を聞いたのは多分大学生くらいの頃だったと思うが、こんなにいい曲があるのかと驚いたのと同時に、クロノクロスというPlayStationのゲームを思い出した。青い海と晴れた空、小さな村を太陽が照らし、色鮮やかな風景が広がる……という感じ。まあ、クロノクロスの爽やかな青い風景は画像を参照していただきたいのだが、そこでギターとストリングスがメインのBGMが使われていて記憶に残っていた、というか、当時はギターとストリングスの組み合わせをそんなに知らなかったから、ってだけだと思うが、そのおかげで僕はアランフェス協奏曲を聞いてもそんなイメージが浮かぶ。でもやっぱり、テデスコの方がそれっぽいかな、クロノクロスのアルニ村は漁村で、テデスコの曲によく似合う。アランフェスは漁村というより港町のイメージ。わかるかなあ……。
1楽章の爽やかな弦楽の序奏は、活気というよりも、長閑さを思い起こさせる。ギターの登場、主題を奏でるギターの音色、この音色の美しさを最大限引き出す旋律だと思う。しかしテデスコ自身はギターが弾けない。ギター弾きではなく、つまり技術に依るものではなく、作曲者の感覚に依るものであり、それがまた独特の魅力になっているし、かといって調和していないなんてことはない。それが傑作たる所以だろう。
2楽章Andantino alla romanza、美しいロマンス、木管も活躍し、ギターと弦楽、木管のバランスのいい絡み合いが素晴らしい。テデスコは何を描いたのだろう。去りゆくトスカーナの美しい風景か。あるいは芸術の中心であった頃の、古き良き文芸の時代のイタリア、人々が排除されるのではなく、人々が文芸のもとに集う、理想郷としてのイタリアだろうか。
そんなことを考えると、1楽章もまた、理想を描いているように感じてくる。穏やかな音楽、幸せな時間。対して3楽章はどうか。ニ短調の荘厳な主題は、故郷に別れを告げているのだろうか。考えすぎかもしれないが、第二次大戦の勃発した年であることを鑑みても、この叙情的な歌の悲痛さは何か胸に秘めたものがあるに違いない。それでも、全体の優雅さ、気品、流暢な音楽語法、レトリック、巧みな旋律とハーモニー、絶妙なオーケストレーション……その辺りの完成度の高さもまた、この曲を傑作たらしめている。
アメリカ移住後もよくトスカーナには帰っていたそうだが、軸足はハリウッドであり、映画音楽メイカーとして働きつつ室内楽曲を書き続けていた。1950年、テデスコのもとに再びセゴビアが現れる。このギター協奏曲を演奏するためだ。その際に彼はギターのための室内楽作品のレパートリーが少ないから新作を書いてくれと依頼し、そうして生まれたのが最高傑作の誉れ高い「ギター五重奏曲」である。ギター協奏曲でも小編成のオーケストラの音を求めたことと、さらに絞った名曲が存在することは、やはりテデスコは古き良き古典の時代を夢見ていたことを裏付けるのではないか。トスカーナを去り、音楽の理想郷へと羽ばたくテデスコの魂、別れの挨拶に耳を傾けよう。
BMG JAPAN (2004-10-20)
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都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more