バーバー 夏の音楽(サマー・ミュージック) 作品31
8月末にすべりこみでサマーミュージック。今年も猛暑の日があったり意外と涼しい日があったりしましたが、皆様お元気でしょうか。
夏というと何を思い浮かべますか?海?プール?スイカ?カブトムシ?これを読むような人はもう、そんなもの思い浮かべませんか?
子ども時代のキラキラした楽しい夏休みはいつの間にか記憶の彼方、今はただただ暑い中がんばって生きている僕ですが、皆さんもがんばりましょう。
さて、暑くても涼しくても、真昼でも夕方でも深夜でも、楽しくても楽しくなくても、夏ってなんとなくダルい雰囲気というか、そういう空気感が常にあるように感じるのは、僕だけではないはず。
これは日本の湿度のせいかとも思っているが、日本だけでなく世界共通なのか、このバーバーの「夏の音楽」も実にそんな夏らしい空気が漂う傑作であり、個人的にはオネゲルの「夏の牧歌」に並んでクラシック界のシーズン・イン・ザ・サン的なマストソングである。そして実はサミュエル・バーバーは10年以上ブログを続けているのに今回始めて取り上げる。自分でもびっくり。
木管五重奏(フルート、オーボエ、バスーン、クラリネット、ホルン)による単一楽章の曲で、10分ほどの長さ。このジャンルの重要レパートリーである。
1953年にデトロイト室内音楽協会から委嘱を受けたバーバーは、ちょうど自身初のオペラ「ヴァネッサ」の作曲中だった。大仕事の合間にこうした小品に取り組むのも、バーバーにとってはクリエイティブ休暇のように機能したのか、室内楽もオペラも上手くいったようだ。
当時未出版の管弦楽曲「地平線」から要素を抜き出したものがこの曲の土台になっている。とはいえ、片手間に作った焼き直しなどではなく、バーバーはニューヨーク木管五重奏団の助力を得て、何度も何度もリハを繰り返しながら、楽器の技術的な可能性だとか、このアンサンブルの音響を最大限活かす配置はどうかとか、検討を重ねたそうだ。
その結果、抒情的でありドラマティックさもあり躍動感もあるのになぜか全体は気怠いという、稀有な名曲が生まれた。
初演は1956年3月20日、デトロイト響の主席奏者たちによって行われた。当然、技術的にも非常に要求の多い、密度の濃い音楽であるが、一方で古典的な作風でもあり感覚的な理解もまた得られやすいのだろう、聴衆からも温かく受け入れられたそうだ。
哀愁あるオーボエの主旋律に聴き惚れていると、急にリズミカルに動き出す。ぼんやり聴いているとかっこいいだけだが、ここのリズムと強弱はよく練られていることに気づく。気づけば元気な変拍子になっていたり、ホルンの一声で帰ってきたり、ハーモニー重視の音楽もあればメロディ推しの部分もある。フルート、オーボエ、クラリネットが奏でる後ろでハーモニーを支えるファゴットとホルンという構図もいいし、気味悪く動くファゴットと吠えるホルンという組み合わせもまたいいし、ホルンとオーボエが朗々と歌う裏で吹き抜けていく木管もいいし、聴き所ばかりである。最後は駆け足でみんな急にいなくなってしまう。夢を見ていたかのように。「ひと夏の」という文句は“Dreaming”とニアリーイコールなのかもしれない。
バーバー自身はこの曲について、皮肉も込めてこう語っている。
「これは夏を呼び起こすことになる――気怠さという意味の夏をね。蚊を殺すような夏ではなくて」
これ、何かいいこと言っているようでそうでもないのが腹立つので、作曲家の言葉で締めくくらないで、音盤の紹介を少し。先も言ったが木管五重奏というジャンルにおいては非常にポピュラーな作品であり、録音も数多く出ている。素晴らしい演奏も多いが、演奏だけでなくプログラムが素敵だなと僕が思ったのはアキロン五重奏団の2017年録音。下の画像がリンクです。
ピアソラの「ブエノスアイレスの四季」の春夏秋冬それぞれの間に、トマジの「春」、バーバーの「夏の音楽」、ヒグドンの「秋の音楽」、マクドウォールの「冬の音楽」を挟んだ意欲的なプログラム。こういうシャレの利いたのはたまらんですね。あまり木管五重奏曲とか聴かない人もぜひ聴いてみてほしい。
都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more