パルムグレン ピアノ協奏曲第2番 作品33「流れ」
「北欧のショパン」といえばグリーグのことを指すそうだが、同じく「北欧のショパン」の誉れ高いフィンランドの作曲家、セリム・パルムグレン(1878-1951)を取り上げよう。実は2011年にもブログで取り上げている。その時は管弦楽曲だった。彼のメインは300を超えるピアノ作品であり、ショパンだけなく「北欧のシューマン」の呼び名もある。
彼はまた、交響曲の分野でフィンランドの顔になったシベリウスが手がけなかったジャンル、ピアノ協奏曲においても、フィンランドを代表する作曲家である。17歳でヘルシンキ音楽院(現シベリウス音楽院)に入学した際、音楽院の創設者であり院長のマルティン・ヴェゲリウスより、ブゾーニのピアノ・リサイタルに招待される。この体験がパルムグレンに大きな影響を与えたそうだ。
独奏曲と同様、ピアノ協奏曲は彼のライフワークだった。5曲あるピアノ協奏曲のうち、第1番が1904年作曲で、第5番が1941年。印象派の香りを感じる独奏曲に対し、ピアノ独奏曲は後期ロマン派の作風で、つまり半音階的で、拡張された和声と豊かに響くハーモニー、そして美しいメロディーが特徴である。20世紀前半のフィンランドでは、パルムグレンのピアノ協奏曲は、シベリウスのヴァイオリン協奏曲に次ぐ人気協奏曲だったという。
今回取り上げるピアノ協奏曲第2番「流れ」は、パルムグレンのフィンランド音楽界での地位を確立させた出世作でもある。原題は“Virta”で、一応「流れ」が邦訳の定番のようだが、英語だと”The River”と書かれている。
さあ、またしても、川をモチーフにした曲の紹介になりましたよ、今年2回目なので省略しますが、今まで取り上げた「川クラシック」はヴュストホフの「スヘルデ川」の記事にまとめてありますのでご参照まで。音楽と「流れ」は切っても切れない関係なのだ。
この曲は、パルムグレンが青春時代を過ごしたポリという都市に流れる「コケマキ川」をモチーフに、また同時に「人生の流れ」を表現したものである。だからグローフェのミシシッピのように具体的な場面描写があるのではない。何しろ表現しているのは人生である。でこぼこ道や曲がりくねった道、地図さえない。それもまた人生。
1907年の秋、パルムグレンはミラノでスケッチを書き始めたが、本格的に作曲に取りかかったのは1912年。ポーランドの名ピアニストであるイグナーツ・フリードマン(実現しなかったがブゾーニのピアノ協奏曲を初演することになっていた)と知り合い、彼の力添えで初演前に出版にいたった。
初演はヘルシンキにて、1913年10月13日、パルムグレンの独奏とイェオリ・シュネーヴォイクトの指揮で行われた。その後も人気を博し、ストックホルムやベルリンなど、各地で非常に多く再演されたそうだ。パルムグレン指揮、フリードマン独奏のこともあったようだし、フリードマンはニキシュの指揮で弾いた記録もある。
単一楽章で20分ほどの長さ。やはり、「流れ」は途切れない。冒頭は川の源流なのだろうか。徐々に湧き出し、流れ始める。流麗なアルペジオ、いささか甘美に過ぎるような気もする。青春時代の情景なのだろうか。でも、そんなところも好きだ。
半音階的なメロディーが北欧らしい透明感を生む。隣り合う半音を行き来する様は、まさしく流れ。「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」というやつだろうか。生きることは旅すること。澄んだ空気が漂うも、ときにラフマニノフ顔負けのロマンティックさも現れる。
ピアノは主導的なこともあるが、どちらかと言えばオーケストラと上手く融合している。シューマンの協奏曲のようだ。あの曲もまたラインの畝りである。
基本的には自由な形式で、拡張されたソナタという感じだが、多くの顔を持つ音楽だと思う。きっと万人が全てに満足するとまでは言わなくとも、どこか一つは自分の感性を刺激するところがあるのではないだろうか。時流とか、流行だって、そういうものかもしれない。しかし単一楽章のこの音楽には統一感もある。
木管の活躍も特徴的だ。冒頭の主題提示でもそうだし、新たな場面の始まりを告げる役割も、木管が大きな役割を担う。素朴で、自然描写的な印象を与える。クライマックスのピアノとオーケストラの掛け合いも見事だ。感情も昂ぶる。とても良い。今の人生を肯定するかのような讃歌が響く。なるほど。故郷の川である。振り返れば遥か遠く故郷が見えるものかもしれない。
日本初演は舘野泉が大学生の頃に山本直純指揮で行っているらしい。さすがだ。当時の日本では全く未知の音楽だったことだろう。僕も以前パルムグレンを取り上げた頃は、今ほどインターネット上に日本語情報はなかった。増えてきたことですし、これからもっと演奏されることを願いましょう。
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都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more