なんとN響が10月22日、23日の公演で武満徹の「ガーデン・レイン」をやるそうで、この曲のファンとしては取り上げておこうと思った次第。フィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブル(以下PJBE)が委嘱した(らしい)作品で、正式名称は“Garden rain for brass ensemble”であり、たまに「雨の庭」と書かれることもあるが、武満徹の有名作品である「雨の樹」と混同しやすいし、クラシック音楽界ではドビュッシー先輩の「雨の庭」で溢れているので、こちらも紛らわしい。
僕は管楽器が好きだし吹奏楽も好きだし、特に管楽器が集まったときの独特の力強さ(やかましさとも言う)が好きで、そういうのはアルフレッド・リードの記事で書いたのだけども、どう考えてもそういう楽器や編成の特徴と、武満徹の作風はマッチしない。武満と言えばピアノか管弦楽、あるいは和楽器などを思い浮かべるし、管楽器の曲にしても尺八やフルートを好んでいる。どうしてPJBEは武満に新作を委嘱したのか知らんが、おかげで音楽史上でも意義深い作品が生まれたのである。
つまり、終始ブラスは弱奏をし続け、繊細で曖昧で幻想的な、奇妙な音を聴かせるという、まさに発想の転換で逆転サヨナラホームランというわけだ。完全5度の澄んだ響きが誘う武満の世界観を味わうとともに、この曲はまた「金管楽器の弱奏」という、それだけで高い技術が求められる技で成り立っており、ある意味ヴィルトゥオージティを味わうこともできる。弱奏ならではの美しさ、残響、間……どう表現できるか、解釈とテクニックとが聴きどころだ。
奏者は5人ずつの2グループが前後に並ぶようスコアにかかれている。
10分もない短い作品で、一応初演は1974年11月17日、日生劇場音楽シリーズの武満徹フェスティバルでPJBEが行ったそうだが、この辺はネット上では諸説あり、文化会館だったとか初演はPJBEだけど委嘱は別だとか、色々書かれている。
ガーデン・レインのスコアには、オーストラリアの11歳の少女Susan Morrison が書いた詩が付されている。
Hours are leaves of life
and I am their gardener…
Each hour falls down slow.
とういうもの。武満はこの詩を見つけた際、自身の音楽についての感じ方を非常に明確に表していると共感し、この詩を基にガーデン・レインは作曲された。どうでしょう、この曲の世界観、武満の音楽を考えるにあたって、非常に参考になるのではないかしら。
武満は「庭」というものを創作において重要視していたことは違いないだろう。広い日本庭園がある豪邸にお住まいの方は、雨の日にさっと庭を眺めたら良いのかもしれないが、なかなかそうはいかないので、少なくともこの曲では、上の詩と、Garden rain という言葉からイメージできるものを、なんとなくぼんやりと思い浮かべながら聴くと良さそうだ。大分県立美術館のブログに「前衛にとっての「庭」とは何か?」という記事があったのでご紹介しておく。
録音も案外たくさんあるし、生演奏も毎年日本のどこかでは行われている、くらいにはあるらしい。初演直後に録音されたPJBEの演奏はドイツ・グラモフォンから出ているのでどうぞ。海外からどう見られているのかを知りたい方は、英グラモフォン誌のレビューも置いておきます。
【参考】
Takemitsu, T.(transl. Y. Kakudo and G. Glasow), Confronting Silence: Selected Writings, Fallen Leaf Press, 1995.
都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more