シェーンフィールド 4つの思い出
上の画像のCDは、“From Brighton to Brooklyn”(ブライトンからブルックリンへ)と題した、エレナ・ウリオステ(vn)とトム・ポスター(p)のデュオ盤である。この二人は夫婦で、お互いのバックグラウンドであるアメリカとイギリスの作品を取り上げて録音しており、すべてブライトンかブルックリンに関わる作曲家の音楽。ちなみにニューヨークのブルックリンには「ブライトン・ビーチ」がある。ニール・サイモンの『思い出のブライトンビーチ』で有名で、昨年秋には『ブライトン・ビーチ回顧録』として演劇の公演があったそうだ。
エレナ・ウリオステはアメリカ生まれのヴァイオリニストで、イギリスの音楽であるエルガーやブリテンの協奏曲が大好き。イギリス育ちのピアニスト、トム・ポスターもまたバーバーやガーシュウィンといったアメリカ音楽に魅了され、お互いに自分の知らない自国の曲を紹介しあう/されあうことに喜びを感じていたとのこと。なんか素敵な話ですね。
このCDの1曲めは、ポール・シェーンフィールド(1947-)の「4つの思い出」という、アメリカ色濃い音楽。シェーンフィールドはアメリカのデトロイト出身の作曲家で、ミシガン大学の教授でもある。これが実に素敵な音楽。
ポピュラーやフォーク音楽などを上手く取り入れた作風で、音楽学者のジョエル・ザックスいわく「空騒ぎと真剣さ、親しみやすさと独創性、軽さと深さの組み合わせ。彼は極めて複雑で厳格な作曲精神と、直感的な手の届きやすさ、そして時には躁状態にも似た音への歓喜、その稀なる融合を達成した」と。つまりは高い芸術性を持ちつつもポップで聴きやすいということだ。
ヴァイオリンとピアノのための「4つの思い出」は、ヴァイオリニストのレーフ・ポリアキンが委嘱した1990年の作品。クリーヴランドのジャズ・クラブで演奏することを想定して依頼したそうだ。サンバ、タンゴ、ティン・パン・アレー、スクエア・ダンスの4曲からなり、その題の通りダンス音楽を取り込んだ組曲。ポリアキン自身の録音もある(記事下のリンク)。またフルートでも演奏されるそうだ。
第1曲サンバ。サンバと言っても、お祭り騒ぎではなく、かなりメランコリックな雰囲気。夜のダンスホール、ナイトクラブが似合う。さすがはそういう依頼に応えただけはある。情熱的な一夜になることうけあいだ。ヴァイオリンもピアノも絶え間なく動き回り、常にサンバ風(ラグタイム風ともいえる)のアクセントが付きまとう。Tico-Ticoみたいだ。
第2曲タンゴ、ここではヴァイオリンの美しい旋律に耳を傾けよう。和声の進行から十分にタンゴを感じることができるだろう。自由に歌うヴァイオリン。ピアノがタンゴのリズムを奏で始めると、興に乗ったヴァイオリンもリズミカルに。最後の嘆き節もまた佳いものだ。
第3曲ティン・パン・アレー、まさしくジャジーでスウィンギーである。全体的にブルーながらも楽しいメロディ。ピアノが案外大人しいのは次へ終曲への備えかしら。 それでもガーシュウィンの香り漂う。
第4曲スクエアダンス、緩徐楽章的なティン・パン・アレーから飛び出たように、速いテンポで暴れる音楽。ストラヴィンスキーのようだ。左手はウォーキングベースで右手はフリーダムなピアノ、こういうのって弾くの難しいんだよなあ、なんて思ったり。快活なヴァイオリンも常に愉快。それこそティン・パン・アレーからやってきたのか、ここでもガーシュウィンが常に顔をのぞかせているような音楽だ。力強いフィニッシュもso cool !
古典的な対位法から予想を裏切るような和声など、伝統的な芸術音楽の技術にポップでキャッチーな商業音楽のエッセンス。こういうの、好きだなあ。
都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more