カステルヌオーヴォ=テデスコ 3つの地中海前奏曲 作品176
9月半ばだというのに30度を超える気温でバテてしまう。今月の三連休はそこら中でお祭りだったろうし、こう暑いと大変なことだ。昔ならこの時期はきっと、夏の暑さも過ぎて秋晴れで、お祭り日和だったと思う。僕は子どもの頃新潟に住んでいて、近所の神社の大きな秋祭りがちょうどこの時期だった。たまたま、今住んでいる東京でも近所のお祭りがこの時期で、コロナ禍で中止だったのが復活したということも重なり、大いに盛り上がっていた。子どもたちと妻はお囃子で太鼓を叩くというので練習していて、本番も楽しく叩いていて何よりだったが、お神輿を担ぐ人たちはこの暑さでは大変だったでしょうね。
だいぶ前書きが長くなってしまったが、とにかく暑いので、今年の夏は少しでも爽やかな音楽を聴こうとしてしまいがち、だった気がする。そこで印象に残った音盤の1つに、ギター奏者アンドレア・コロンジュのアルバム「20-21世紀の地中海のギター・ソナタ」というアルバムがある。vol.1も2もとても素敵で、基本的に知らない作曲家ばかりだった。パラシオス、マネン、カスティーリョ、ジラルディーノ、ポルケッドゥ、ケヴィン、ブリンドル……ギター音楽の世界も奥が深いなあ。これはこれでとっても良かったのでTwitterでもツイートした。音盤は↓
Mediterranea Guitar Sonatas
Andrea Corongiu
Mediterranean Guitar Sonatas Of The 20th & 21St Centuries Vol 2
Andrea Corongiu
今回はもう少しクラシック音楽界隈で名の知れている、マリオ・カステルヌオーヴォ=テデスコ(1895-1968)の曲を取り上げたい。曲名は「3つの地中海前奏曲」、ギター独奏のための組曲だ。
以前書いたギター協奏曲のブログ記事でも彼の生涯について少し触れている通り、反ユダヤ主義が広がる故郷イタリアを脱出してアメリカに移住したテデスコは、戦後もアメリカに住みつつ、何度もイタリアを訪れていた。1954年の夏にテデスコは故郷フィレンツェを訪れる。友人であり出版社ForlivesiのオーナーでもあったRenato Bellenghiの訃報を知ることとなる。
このレナート・ベレンギという人物は1953年に亡くなったテデスコの友人である。演奏家・楽器店を営む父や叔父から出版事業を引き継ぎ、テデスコの作品を多く出版した。テデスコだけではなく、リコルディ社が出版を渋る作品の出版を引き受けたりするなど、気概ある出版社として知られていたフォルリヴェシ社も、ベレンギの死後は活動も停滞、1966年のフィレンツェの大洪水で多くの楽譜や資料が失われてしまったそうだ。テデスコは1955年、ベレンギに捧げる曲として「3つの地中海前奏曲」を作曲、翌56年にフォルリヴェシ社から出版されている。
テデスコのギター作品と言えばセゴビアとの親交を思い浮かべるが、それとはまた別に縁の深かった友人との親交で出来た曲もあるのだ。
3曲合わせて13分くらい。第1番はセレナテッラ(Serenatella)、小セレナードという意味。開始早々にもう、地中海を感じる。行ったことないけど。なぜ地中海を感じるのだろうか。ギターの音色なのか、半音階で下降する音列なのか、はたまた和音のおかげか、わからないけど……。セレナードという言葉から想像されるほどには「ねっとり」した感じがしないのは、日本の夏のような湿気を感じないせいかしら、いやいや、快活な雰囲気を持つ音楽だ。
第2番ネニア(Nenia)、子守歌、葬送歌などの意味、ここでは亡くなった友人に捧げる歌だろう。ギター曲には少し珍しいEsのキーで始まり、静かで抒情的だが、情感たっぷりに熱く奏でられる音楽。いくぶん即興的でもある。自在なルバートで歌うメロディはギター独奏音楽の醍醐味だ。楽譜ではそこかしこにespr. や molto espr.の表記が見られる。つまり、そういう音楽なのだ。
第3番ダンツァ(Danza)、非常に技巧的な速いパッセージから始まる。楽しくダンスするというより、古代の神事、異教の祭り、狂乱の踊りという方向性だ。途中でAndantinoの部分が挿入され、そこにはlanguido e un poco malinconico(嘆き悲しみ、そして少し憂鬱に)とある。再び速い音楽に立ち戻りクライマックス。
地中海を望み、他界した友を偲ぶ優しい歌と、古代の祝祭を思い起こすような激動の舞曲を楽しむ。短い時間だが、日本の暑過ぎる夏を離れて、地中海へひとっ飛び。絵本をめくるように気軽に楽しめる、良い音楽だ。
Italian Guitar Rarities
Bettinelli / Buscemi
都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more