トンプソン 交響曲第2番:亜米利加はトント限りがない

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トンプソン 交響曲第2番 ホ短調

前回の記事はカナレット展に合わせてカナレットの絵がジャケットに用いられた音盤を取り上げた。今回は秋らしいジャケットにしようと思い、こちらをチョイス。なんか、日本の秋、短くなってませんか? ついこの間まで暑かったのに、もう冬なのかってくらい寒くなって。もっと秋を味わいたいなあという希望も込めて、紅葉のきれいなものにした。アメリカの作曲家、ランドル・トンプソン(1899-1984)の交響曲集、ニュージーランド響の録音。別に秋がテーマの音楽というわけではないのだが……偶然だと思うけど、同じくトンプソンの交響曲第2番を収録したネーメ・ヤルヴィ指揮デトロイト響のChandos盤も似たような色合いジャケットだ。

THOMPSON: Symphony No. 2 / CHADWICK: Melpomene


合唱指揮者として有名なランドル・トンプソンは、その作品も合唱曲が多く、「ハレルヤ」をはじめ日本でもコンクール等で歌ったことがある合唱経験者は多いだろう。今回はどうしても紅葉のジャケを出したかったので交響曲にしたが、男声合唱と管弦楽(元はピアノ伴奏)のための“The Testament of Freedom”、日本語なら「自由の証」かな、この曲をブログに取り上げても良かった。トーマス・ジェファーソンの生誕200年を記念して1943年に作曲されたカンタータで、バージニア大学の合唱団「バージニア・グリークラブ」の委嘱作。ジェファーソンのテクストを用いた4楽章からなるこの合唱曲は同合唱団にとって今も重要なレパートリーである。
トンプソン自身が管弦楽編曲を行い、1945年4月14日、フランクリン・ルーズベルト大統領の追悼演奏でセルゲイ・クーセヴィツキー指揮ボストン響がカーネギーホールで演奏した。後日レコーディングしたものがクーセヴィツキー録音集にある。戦時中なこともあり意図あって取り上げられたと想像されるが、それはそれとして作品自体は非常に素晴らしいので、ぜひ聴いてみてほしい。

Serge Koussevitzky Conducts American Music


さて、本題の交響曲の話をしよう。トンプソンはハーバード大学を卒業した後にイタリアで学び、帰国するとウェルズリー大学で音楽の助教授と合唱指揮者を務めた後、カーティス音楽学校とハーバード大学で音楽を教えた。サミュエル・バーバーやレナード・バーンスタインを指導したそうだ。
バーンスタインはトンプソン作品の擁護者となり、1940年にタングルウッドで初めて学生オケを指揮した際にトンプソンの交響曲第2番を取り上げている。1968年にはニューヨーク・フィルと同曲をレコーディング。バーンスタインの人気と知名度のおかげで、日本の音楽ファンの間でもトンプソンの交響曲は第2番だけなら割と認知されている方だと思う。

American Masters
レナード・バーンスタイン


ということで、まずはバーンスタイン盤で第2番を聴いてもらって、それから興味のある方は先の紅葉のニュージーランド響の方で他の番号にも触れてもらうと良いのかもしれない。1番も3番も素敵な作品だ。
交響曲第2番は1931年に作曲。初演は1932年3月24日、ハワード・ハンソン指揮ロチェスター管。1933年11月2日にブルーノ・ワルター指揮ニューヨーク・フィルが演奏した際の新聞の評では「この交響曲の重要な点は、音楽をシンプルで無理のない、気取らないものにすることに成功したことだ。メロディーやリズムの表現は一般的な方法を利用し、扱い方は洗練されていて職人的だ」とか、別の新聞評では「時には明白であることをためらわず、力まず、想像力や感情を制限せず、シェーンベルクとはまったく違う響きを出すことを恐れない。彼の音楽にはユーモアと温かさと楽しさがあり、多くの人が心地よい慰めと感じるだろう」と書かれた。
なぜシェーンベルクが引き合いに出されているのかと思い、ニューヨーク・フィルのアーカイブを検索してみたけど、この日の他のプログラムはバッハとR・シュトラウスだった。もう少し調べたら、1933年10月31日にシェーンベルクがニューヨークに着いたと書いてあるのを発見。亡命したばかりのタイミングだったようだ。シェーンベルクとは正反対の、ゴリゴリの保守的な書法の交響曲である。4楽章構成で25分ほどの長さ。本人曰く、この音楽は文学や精神的なプログラムに基づくものではなく、循環形式でもない。


第1楽章Allegro、力強くリズミカルな動き、舞踏的である。このノリの良さといい、金管楽器の鳴りといい、半音階の動き方といい、ジャズっぽさがあっていかにもアメリカンな雰囲気。しかしポップに流れすぎることはなく、あくまでシンフォニーの楽章という体をしている。Gramophoneでは「スウィングするヴォーン=ウィリアムズ」と書かれていた。言いたいことはわかる。
第2楽章Largoは対照的な緩徐楽章、これが美しい……合唱作曲家の本領発揮といったところだ。僕はグローフェの組曲の緩徐楽章の美しさが本当に大好きだが、それに似たアメリカらしいバラードの様相と、もう少し洗練された雰囲気が合わさり、さながらディーリアスのフロリダ組曲を彷彿とさせる(4楽章もである)。後半に出てくるティンパニの刻みも絶妙だ。ちなみにトンプソンは、この交響曲で音楽自体がリズミカルになるために、パーカッションの使用をあえて限定的にしたと語っている。シンバルとティンパニしか使われていないが、要所でいい仕事をする。
第3楽章Vivace、スケルツォ楽章は最もリズミカル。変拍子で、どことなく不安定でぎこちない。まるでウォーキングベースのように走り抜ける弦楽も面白い。トリオも一筋縄ではいかない、温もりと刺激が交互に登場する。楽章の終わり方もなかなか衝撃的だ。トンプソンは全ての楽章を別々の音楽にし、それを4つ合わせて完全なバランスを目指したと語るが、その通りに出来上がっている。
第4楽章、讃美歌のような幕開けに、ラグタイムのような音楽が駆けるのも非常にアメリカ的だ。この冒頭のフレーズ(アメリカ民謡のBuffalo Galsとの関連を指摘する人もいる)は最後にトゥッティで奏でられ、仰々しいほどに感動的なラストを演出し、これがトンプソンのやりたい伝統的な交響曲なのだと納得させる。最後の最後になるまでほとんどオーケストラ全体の強奏がなかっただけあって、妙に説得力が出ている。コンパクトなサイズ感だがスケールの大きさも感じられて、良い交響曲を聴いたなあと心から思う。
トンプソンの交響曲第2番が作曲される前年、1930年には先日ブログに書いたウィリアム・グラント・スティルがアフロ=アメリカン交響曲で成功を収めている(ブログに書いたのは別の曲だが)。また、ハワード・ハンソンが交響曲第2番「ロマンティック」を書いたのも1930年、この曲は2009年にブログで紹介した。そういう「アメリカらしさ」があふれる交響曲が世に出てきた時期。この辺を開拓して色々聴いていくのも楽しいものだ。


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Author: funapee(Twitter)
都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more

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