コリスタ 3声のシンフォニア:ローマの街のオルフェウス

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コリスタ 3声のシンフォニア集


前回はハイドンという誰もが知る作曲家のシンフォニーについて書いたので、今度は知られざる作曲家のシンフォニアについて書いても良いだろう。まあ、どんな順で何について書こうが僕の勝手なのだけど。
知られざる作曲家を漁って聴いていると、時にはあまり面白くない音楽に当たることだってある。しかし、ブログで紹介しているものは、基本的には僕が「紹介したい」と思うに至るだけの良さを感じた音楽なのであって、別にキュレーターを気取りたいわけではないが、単に「知られざる音楽」であるだけではなく「知られざる素晴らしい音楽」だと確信している。時間が無限にあって何でもかんでも紹介できるわけではないので必然的にそうなるだけだけどね。僕は素人なので過度な期待はしないでいただきたいが、読んで、聴いてもらえれば、それなりに楽しめるような「知られざる音楽」を取り上げているつもりだ。

今回はコリスタの曲。EaglesのHotel Californiaに出てくる「コリタス」ではない。コリスタ、である。レリオ・コリスタ(1629-1680)は17世紀ローマの音楽家で、リュートやギター奏者だった。父がヴァチカンで要職に就いていたため、早くから音楽の教育を受けることができたコリスタは、様々な教会で働いたのちローマのサン・マルチェッロ・アル・コルソ教会の楽長を10年務める。1664年にはフラヴィオ・キージ枢機卿の侍従長としてフランスへの外交使節団に加わり、ルイ14世の前で演奏。ルイ14世は非常に感銘を受けたと伝わっている。名声が広まり弟子志願者が殺到したそうだ。晩年はローマで音楽教師として過ごした。
オラトリオを2曲作曲しており、音楽学者Peter Allsopによればそのオラトリオの演奏にはコレッリが参加したそうで、コレッリがコリスタの影響を受けたのは間違いないとまで書いているが、残念ながら2曲とも失われている。生前にコリスタの曲が出版されることはなく、ヒエログリフ研究で名高いイエズス会のアタナシウス・キルヒャー(1602-1680)がコリスタの崇拝者だったため、キルヒャーの著作にはコリスタの作品の名前が登場するそうだ。現存する作品はカンタータ、アリア、器楽作品としては撥弦楽器のための曲と、弦楽のためのシンフォニアなど。このシンフォニアは、当時ローマの教会でクリスマス・イブに演奏されたという記録が残っている。


シンフォニアという言葉はどういう音楽を指すのか。古典派以降であればそれこそハイドンのようないわゆる一般的な「交響曲」をイメージすれば良いのだけど、もっと古い音楽を聴くときはいつも「合奏のための曲」くらいのイメージで捉えている。多分、このコリスタのシンフォニアでもそのくらいの理解で良いのだと思われる。
声楽作品の合間に入る器楽合奏の曲のことをシンフォニアと名付けることもあり、バッハのクリスマス・オラトリオのシンフォニアなどは有名だ。↓にリンクを貼った、アレッサンドロ・デ・マルキ指揮アカデミア・モンティス・レガリスによる、ストラデッラのオラトリオ「洗礼者聖ヨハネ」の2007年録音Hyperion盤では、冒頭含め途中に何度かコリスタのシンフォニアが挿入されている。ストラデッラはコリスタより10歳若い、同時代の作曲家だ。元のオラトリオにストラデッラ自身のシンフォニアももちろんあるが、デ・マルキは敢えてコリスタのシンフォニアも入れた。当時そのような使い方がされたのかどうか僕は詳しくないけど、これはこれで良い効果を生んでいると思う。

STRADELLA (1639-1682)
San Giovanni Battista
Academia Montis Regalis/Alessandro De Marchi


記事初めに貼った音盤はBrilliant Classicsから出ているコリスタのシンフォニア集。アンサンブル・ジャルディーノ・ディ・デリツィエの2019年録音で、10曲のシンフォニアを収録。残念ながら先に挙げたHyperion盤で挿入されている曲はここには入っていないが、10曲中9曲は初録音ということで、世の中にまだ知られていない良い曲を知らしめてやるぞという意気込みを感じるチョイスである。音盤では1曲1トラックだが、一応どの曲もいくつかの楽章に分かれている。
1曲目のシンフォニア ヘ長調W-K26の冒頭から美しい。この1曲目に惚れたので聴き進めることにしたのである。オルガンが用いられて、教会で活躍したコリスタの音楽の魅力が十二分に出ていると言えるだろう。このアンサンブル・ジャルディーノ・ディ・デリツィエの演奏ではオルガンに加えて、コリスタの得意だったアーチリュートやギターも使われていて、どの曲も豊かな音色が楽しい。演奏が良く、音楽も生き生きとしている。もちろん演奏だけではなく、曲そのものの良さもあるのは確かだ。知られていないのがもったいないくらい、どれも捨て置けない魅力のある曲ばかり。どの曲にもフーガ楽章があり、厳格な対位法。これは当時のローマ音楽の特徴の一つとのことだ。曲全体の骨格もしっかりしていて、前半はゆっくりした音楽で、後半はフーガ、こういう楽章の性格なんかを鑑みても、確かにコレッリのソナタなどに影響を与えたというのも本当のことかもしれない。パーセルもコリスタを高く評価していたと指摘する学者もいるそうだ。
シンフォニア ト長調W-K37では1楽章の後に、ヴァイオリンと通奏低音が交互に即興を行う部分もある。楽譜を見ていないのでわからないが、解説でそう書いてあるのでそうなんだろう。当時のローマにいた腕達者たちの見せ場も用意されているということだ。少ないが短調の曲も良いし、踊り出したくなるようなハ長調W-K13も実に気分の良い音楽。本当に、どのシンフォニアも素晴らしい音楽である。
アタナシウス・キルヒャーは、コリスタのことを「ローマの街のオルフェウス」(Romanae Urbis Orpheus)と評している。良い呼び名だ。ローマでは要人から街の音楽家まで多くの人に慕われたコリスタ。今の世の中、そこら中にケルベロスみたいなのが溢れているので、こういう素晴らしい音楽で宥めてあげてほしい。

Alte Musik Köln
Roma


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