ルーマン トリオ・ソナタ ホ短調:文句があるならドロットニングホルムにいらっしゃい

Spread the love


ルーマン トリオ・ソナタ ホ短調 BeRI115

もう寒い。秋が終わったようだ。秋らしいジャケットの音盤で記事を書ける短い期間が過ぎ去り、冬らしいジャケットの音盤を選ぶ時期がやって来た。ということで、ちょっと冬らしいものをチョイス。ポラリス、素敵でしょ? 今回は北欧のクラシック音楽、スウェーデンの作曲家でヴァイオリニストだったユーハン・ヘルミク・ルーマン(1694-1758)の音楽を取り上げよう。ルーマンは「スウェーデン音楽の父」とか「スウェーデンのヘンデル」と呼ばれる。ロンドンでヘンデルらに学び、帰国後はスウェーデンの音楽界の発展に重要な役割を果たした人物である。


子どもの頃から神童ヴァイオリニストとして宮廷楽団で演奏したルーマン。1715年から6年間ロンドンに留学しペープシュに師事。ヘンデルが指揮する王立音楽アカデミーのオーケストラでは第2ヴァイオリン奏者として演奏した。ジェミニアーニやヴェラチーニら、当時の有名音楽家とも交流したそうだ。
スウェーデンに帰国後は王立礼拝堂の副楽長に任命され、後に王立管弦楽団の首席指揮者も務めた。作曲も活発に行い、1727年には12のフルート・ソナタを出版。公開演奏会等を取り仕切ったり、外遊して諸外国の有名作曲家の作品をスウェーデンに持ち帰って紹介するなど、まさにスウェーデン音楽の父として大活躍した。
ルーマンの代表作として知られているのは「ドロットニングホルムの音楽」だろう。1744年、当時の国王であるフレドリク1世は、ホルシュタイン=ゴットルプ家のアドルフ・フレドリク(次のスウェーデン国王)とプロイセン王女ロヴィーサ・ウルリカの結婚にあたって、二人にスウェーデン郊外のローベン島にあるドロットニングホルム宮殿をプレゼントした。今は世界遺産として有名な宮殿で、北欧のヴェルサイユ宮殿と呼ばれているらしい。バッキンガム宮殿ではないようだ。ともあれ、その結婚を祝して作曲されたのがルーマンの「ドロットニングホルムの音楽」である。華やかで美しい、ロイヤルウェディングの音楽だ。

Johan Helmich Roman: Drottningholms-musique


晩年になるとルーマンは聴力が衰え、またパトロンの不在などもあり、死後は忘れ去られていくが、生前に唯一出版された室内楽曲であるフルート・ソナタ集は各地で写本が見つかっており、19世紀初頭まで演奏された形跡が有るとのこと。そういうわけで、フルート奏者や愛好家にとっては今もルーマンの名は親しみがあるかもしれない。それ以外の人にはあまり耳馴染みがないだろうが、「ドロットニングホルムの音楽」やフルート作品以外の分野の作品も録音が増えているので、色々と聴いて楽しんでもらいたい。


記事冒頭に挙げたのはフー・ユウェイ(fl)とヨハン・レフヴィング(gt&theorbo)のデュオ「フラウグィッシモ」による、フルートを用いたルーマンの室内楽作品集、2021年録音。フルート・ソナタや声楽を含む作品に混ざってこのホ短調のトリオ・ソナタも選ばれており、フルートとヴァイオリンと通奏低音という組み合わせで録音されている。他にもトリオ・ソネリーにクレータ・マリア・ケンタラ(vn)に加わったヴァイオリン2本と通奏低音の録音や、アンサンブル・ドゥルチス・イン・フンドによる2つのリコーダーとファゴットとチェンバロという組み合わせの録音もある。今挙げた2種の録音はルーマンのトリオ・ソナタ集となっており、ホ短調BeRI115以外の作品番号のトリオ・ソナタも聴ける。

Johan Helmich Roman Trio Sonata Trio Sonnerie

Johan Helmich Roman Trios Ensemble Dulcis in Fundo


そもそもトリオ・ソナタとは何か。バロック時代に流行した2つの高音部と通奏低音のための音楽形式で、3つの声部があるからトリオ・ソナタという。通奏低音は複数人で演奏する場合もあるので必ずしも3人とは限らない。このジャンルで最も有名なのはコレッリのトリオ・ソナタだ。2本のヴァイオリンと通奏低音を想定しており、緩急緩急の4楽章からなるものがほとんど。ゆっくりじっくり始まる1楽章に、2楽章ではフーガ風の速い音楽、3楽章は1楽章よりもさらにシンプルで、ちょっとした繋ぎの音楽であることも多く、4楽章は2楽章よりもさらに速い舞曲風、という構成だと思っておけば大体間違いないだろう。
こうしたパターンがイタリアはもちろん各地で様々に発展を遂げる。本国イタリアでは簡素化の傾向を示し、ホモフォニー的、モチーフの繰り返しが増え、それがギャラント様式へと繋がっていく。ドイツではさらに長い形式や対位法的な書法が好まれるようになり、ヘンデルのトリオ・ソナタなどは好例だろう。トリオ・ソネリーのヘンデル録音を貼っておく。

HANDEL Trio Sonatas, Op. 2 Sonnerie


実際はそんなに簡単に説明できるものではないだろうが、大まかに言うとこんな感じだということで許してほしい。いやもちろん、異論反論、間違いの指摘は大いに結構。どしどし送ってください。ただ、そういう異なる意見をぶつけるのって、SNSだとどうしても喧嘩っ早いというか、相手を倒すことが第一というか……そういう手荒い輩が跋扈してるじゃないですか。怖いよね。その点、このブログは僕が一国一城の主、僕がルール、朕は国家なりの「ボクノオンガク宮殿」なので、まあ平和ではある。文句があるならベルサイユ、じゃなくて、ドロットニングホルムにいらっしゃい! 専門家やプロのお偉いお方、指摘するなら優しく優しく指摘してね(笑)
さてさて、ではルーマンのトリオ・ソナタは師であるヘンデルの影響が大きいのかというと、またそれともちょっと違った雰囲気なのが面白いところ。代表作の「ドロットニングホルムの音楽」なんか、もろにヘンデルって感じなのに……トリオ・ソナタでは、ヘンデルのような巧みな展開の仕方は見られず、むしろずっとイタリア寄りに感じるが、だからと言ってギャラント様式に近づいていくような、時代の先を行く感じでもない。コレッリのトリオ・ソナタのように、教会で演奏されるトリオ・ソナタ(教会ソナタ)でもないと思う。おそらくは宮廷で演奏されるのがメインだったのだろう。ストックホルムの貴族たちのサロンなんかを想像しながら聴くと良いのかもしれない。何にせよ独特な味わいがある。もっと詳しい人なら、この感覚を専門的な用語で言語化できるのだろう。


このホ短調のトリオ・ソナタは、ルーマンのトリオ・ソナタ集の中でもシンプルな構成のもの。1楽章のLargoも短いフレーズで成り立っており、2楽章Vivaceも短いモチーフが現れ、各々のパートはそれを真似たような、似たりよったりのモチーフを重ねながら展開する。緻密な対位法的なフーガでもないし、大胆な展開でもないが、どの楽器もバランス良く平等な扱いで良い雰囲気を醸し出している。3楽章はちょっとコレッリを思わせる。4楽章はNon presto、三拍子の舞曲風。シンプルな分、フルートないしリコーダーといった楽器による演奏もよく似合う。冒頭の音盤で、数あるトリオ・ソナタの中からこの曲だけ取り上げられているのも納得である。
僕はヘンデルとは違うと感じたが、逆にヘンデルらしさを感じる人もいるだろうし、コレッリや他の音楽との近似を感じる人もいるだろう。そういう感想の違いはとっても面白いので、ぜひ皆さん面白い感想があれば僕にも教えてください。文句があるなら宮殿へ、そうでない穏やかな会話ならTwitterへいらっしゃい、おもてなしして差し上げましょう。IKEAのホットドッグで良いかな。


ここまで読んでくださった方、この文章はお役に立ちましたか? もしよろしければ、焼き芋のショパン、じゃなくて干し芋のリストを見ていただけますか? ブログ著者を応援してくださる方、まるでルドルフ大公のようなパトロンになってくださる方、なにとぞお恵みを……。アマギフ15円から送れます、皆様の個人情報が僕に通知されることはありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございます。励みになります。ほしいものリストはこちら

Author: funapee(Twitter)
都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more

にほんブログ村 クラシックブログへ にほんブログ村 クラシックブログ クラシック音楽鑑賞へ 
↑もっとちゃんとしたクラシック音楽鑑賞記事を読みたい方は上のリンクへどうぞ。たくさんありますよ。

Spread the love

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

*

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください