グリーグ 挨拶:響けよ小さな春の歌

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グリーグ 6つの歌曲 作品48 第1曲 挨拶


新年あけましておめでとうございます。2025年も元気にブログを書いていきたいと思います。皆様よろしくお願いします。あまり新年早々気合を入れると途中で減速しそうですが、まあ書けるときは書く。書けないときは書けないからね。
今年の新年聴き初めに選んだのは、ドミニク・ヴェルナー(Br)とシモン・ブッヒャー(p)の「北欧歌曲集」。ゲーゼ、グリーグ、ラングストレム、キルピネン、シベリウスの作品を集めたもので、その中のグリーグの作品、6つの歌曲op.48の第1曲「挨拶」は、ハイネの『新詩集』の「新しい春」を歌詞に用いており、新春の寿ぎにぴったりだ。「挨拶」というタイトルも良い。この記事を新年のご挨拶にしよう。年末のご挨拶はSNSの愚痴ばっかりだったので、年始のご挨拶は真面目に芸術の話をするぞ。

Nordische Lieder
Dominik Wörner


グリーグの6つの歌op.48は、第1曲「挨拶」、第2曲「いつの日か、わが思いは」、第3曲「この世のなりゆき」、第4曲「沈黙した夜鳴きうぐいす」、第5曲「ばらの季節に」、第6曲「ある夢」の6曲からなり、第1曲と第2曲は1884年頃、残りの4曲は1888-89年頃の作。この曲集の特徴は、6曲とも全て異なる詩人の詩を用いていることだ。第1曲から順に、ハイネ、ガイベル、ウーラント、フォーゲルヴァイデ、ゲーテ、ボーデンシュテットと、どれもドイツ詩である。ドイツ詩を用いたグリーグの歌曲は初期作品以来、40代で書くのはこれが久しぶりということになる。グリーグがドイツで学んだことや、ドイツ風の交響曲を書いて封印したことなどは、2021年にブログに書いたピアノ・ソナタの記事を参照してください。

6つの曲のどれもそれぞれ魅力があり、ドイツ語ということもあって意外と多くの歌手が取り上げている。人気としては第3,4,6曲あたりが高いような気もするが、今回は新年の挨拶も兼ねているので第1曲「挨拶」の話だけで勘弁してください。6曲の中での人気はそうでもなくても、この曲のハイネ詩は非常に人気であり、グリーグの他にもメンデルスゾーンやルビンシテイン、意外なところではブルックナーも用いているし、他にもツェムリンスキーやアイヴズの作品もある。そんな多くの音楽家から愛されるハイネ詩を、生田春月の訳を参考にして日本語訳も付けたので、まずは音楽の前に詩だけでも味わっていただきたい。

Leise zieht durch mein Gemüt
Liebliches Geläute.
Klinge, kleines Frühlingslied,
Kling hinaus ins Weite.

Zieh hinaus, bis an das Haus,
Wo die Veilchen sprießen.
Wenn du eine Rose schaust,
Sag, ich lass’ sie grüßen.

わたしの胸をかるく通して
あいらしく聲立てるのはおまへかい
響けよ、小さな春の歌
響いて行けよ、何處までも

亂れて菫の咲きにほふ
戀しい家へ出でて行け
もしもあの薔薇を見たならば
わたしがよろしく云つたと云つてくれ

グリーグはハイネの詩を若干の変えており、上記の詩はグリーグが変更を施した後の歌詞である。Ziehのところは、原詩ではKlingeが繰り返し用いられているし、Veilchenとなっているところは原詩ではBlumenである。Zieh hinausの方が自然とはいえ、Klingを避けるほど何か強い意志があったんだろうか。あるいは、ただの花ではなくスミレである必要も。理由は全く不明だが、歌手であり妻であるニーナのことも関係あるのかもしれない。ないのかもしれない。わからないが、グリーグの歌曲においては、ニーナは常に彼のミューズであった。グリーグは24歳でニーナと結婚、二人の関係は徐々に冷めていくが、この曲を作曲したのは二人が演奏会で共演したり、ちょうどまた親密になってきた時期だと解説等では書かれている。二人は1885年にはベルゲンに家を買っている(トロルドハウゲン)。
そんな背景があるからかしら、ピアノの序奏では16分音符と付点のリズムが非常にウキウキした気分を演出する。風が吹き抜け、小鳥が囀るようだ。歌のメロディも喜びに満ちている、美しい。Zieh hinausから始まる後半は短調へ、この変化があるとKlingeから詩を変えたのも理解できる。また少し趣きの違う情感が生まれてくる。BlumenをVeilchenにしたのも、もしかすると家に咲き乱れる花々をスミレにすることで、次に出る薔薇が「その花々とは違う、ある特定の花、ある特定の愛しい人」を指すことを強調する意図があるのかもしれない。なんて色々と想像してしまうけど、いやいや、もしかするとニーナの思いつきだったりして。
ハイネの「新しい春」という詩は、もともと歌曲の歌詞を想定して創作したものだそうだ。アルベルト・メトフェッセル(1785-1869)という作曲家の依頼に応じて書いたものだそうで、全編読めばなおのこと、パリ移住直後のハイネらしいと言えば良いのだろうか、明るく美しい空気感に満ちている。メトフェッセルという作曲家について、おそらく殆どの音楽ファンが名前すら聞いたことがないと思われるけれども、僕もよく知らない。生田春月いわくハイネのこの詩は「作曲に適する歌謡として作られたもの」であり、「美しい椿姫たちを詠じた詩篇」であり、「ハイネの作った最も美しい詩に属する」と。確かに春らしい美しい内容だし、後になって多くの作曲家が用いたくなるのも納得の、歌向きの詩だと言えるだろう。
短い歌だが構成も良く、ドイツ・ロマン派歌曲のスタイルど真ん中。Op.48の他の曲も皆それぞれ魅力があって美しい。ぜひ6曲全て聴いて楽しんでいただきたい。この第1曲「挨拶」は、6つの中の1つめに相応しい華やかさを添えている。ハイネの詩も、当時はやはり軽薄な印象で批判を受けたそうだが、今はそんなことあるまい。やはり春はチャラチャラして然るべき、か。これを書いている今、大寒波が来るとニュースでやっているが、年始だし気持ちだけでも明るく温かく行きたいものだ。

グリーグ 歌曲集
アンネ・ゾフィー・フォン・オッター


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Author: funapee(Twitter)
都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more

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