ドーフ スワンズ:白鳥たちはそう 見えないとこでバタ足するんです

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ドーフ スワンズ

楽曲紹介記事の更新は2月以来となる。少し間が空いてしまった。仕事がめちゃくちゃ忙しくて……やっと少し落ち着いてきた(かもしれない)ので、書けるときに何か書いておこうと思う。
今回は米国の作曲家ダニエル・ドーフ(1956-)の室内楽作品。最近聴いたアルバムに入っていた“Swans”を取り上げたい。NeStern Duoというフルートのデュオ、それもアルト・フルートやバス・フルートといった低音楽器を演奏する奏者たちのアルバムで、どの曲も良かった。曲が良かったというか、曲についてどうこう言うほど詳しくもないのだけど、やっぱり日々疲れているとこういう柔らかくて温かくて優しくて、包み込んでくれるような低音が実に心地よく感じられるのだ。

ニューヨーク生まれのドーフはコーネル大学を卒業後、ペンシルベニア大学でジョージ・クラムやジョージ・ロックバーグに師事。カレル・フサからも学んだらしい。日本でも人気の指揮者アラン・ギルバートの最初の音楽監督キャリアとして有名なオーケストラ、ハドンフィールド交響楽団では、ドーフはバス・クラリネット奏者を務めたそうだ。1996年からは同オーケストラのコンポーザー・イン・レジデンスに任命され、2015年まで務めている。

Daniel Dorff(1956-)、すごいネクタイだな。画像掲載元:Landscape Music

そういうわけで木管楽器の作品、特にバス・クラリネットやコントラファゴットなど、オリジナル曲の少ない分野で作曲を手掛けるようになった。またクラシック音楽に触れる子どもたちを増やそうと、ナレーション付きの作品も多く作曲。必然、動物が登場する音楽物語のような作品も増えてくる。木管楽器と動物、ドーフにとって長く人生を共にしてきた二つのテーマが重なったものが、今回の“Swans”である。ピアノ伴奏付きのアルト・フルート・デュオが、水面を滑るように舞う二羽の白鳥を表現する、美しい音楽だ。NeStern Duoによる委嘱作品でもある。

書法としては後期ロマン派や印象派に近いものの、ところどころ今風の響きも聞かれる。ドーフはジャズっぽい作品も多く書いており、クラリネットとピアノによる「ミスター・マウスのためのダンス・ミュージック」や、無伴奏コントラファゴットのための“In A Deep Funk”、そして冒頭のアルバムでも編曲版が収録されているアルト・フルート、フリューゲル・ホルン、ピアノのための「バラード」などがそう。そういう曲が人気で高く評価されるのもわかるけども、僕は個人的に白鳥が琴線に触れたのだ。
確かにフルートは鳥を表すのに最も適した楽器である。ヴィヴァルディも書いている。では白鳥は? 普通フルートが表す鳥は小鳥だろう。白鳥と言えば、我々が最初に思い浮かべる楽器はそう、チェロなのだ。いや自分はオデットなのでオーケストラなんですという人やリート派なのでシューベルトですという人もいくらかいるだろうが、それはともかく、チェロに近い音域のフルートというのは、白鳥にこれ以上無いくらいぴったりなんじゃないか。

10分弱ある単一楽章の作品で、大きな場面変化などもない。ひたすら白鳥たちが優雅に過ごしているのを眺めているだけ、といったところ。物語的な展開もほぼないし、聴き手はあくまで傍観者、野鳥の観察者として、ただぼうっと眺めるのに徹することになる。思えば贅沢な時間である。ときに四度で平行移動する2つのフルートは、作曲者いわく寄り添って泳ぐつがいの白鳥の様子だそうだ。なんかもう、微笑ましくすらある。こういう曲の終わりってどうなるんだろう、跡を濁さずサッと飛び去っていくのかしら……なんて想像しながら聴いていたら、これはどうも、飛び去るのではなさそうな終わり方である。それがまた良いのである。劇的ではなく、慈愛に満ちた幕切れ。


このアルバムのタイトルとも関連している曲が、アルバム1曲目に収録のアマンダ・ハーバーグ(1973-)作曲“Firefly Triptych”、日本語で言えば「蛍三部作」である。これはクラシック音楽では意外と少ない「蛍」をテーマにした3曲からなる組曲で、蛍だけにさすがは夜がよく似合う、多分に夜想曲的であり、幻想曲的でもあり、すごく良かった。夏、そして山間の地を彷彿とさせる音楽に始まり、アルバム最後は白鳥の音楽、つまりは冬と湖を想像させて終わる、なんて素敵なコンセプトだろう。
どちらの音楽も素晴らしかったのだけど、僕の思い入れとしては、蛍よりも白鳥なのである。蛍は、飼育されているのは何度か見たことがあるし、実は野生の蛍も、父の実家(すごい山の中にある)の方で見たことがあるのだが、幼かったせいか感動した記憶はない。その点、白鳥を見るのは、子どもの頃は冬の恒例行事の一つだった。新潟の水原という場所にある、白鳥の飛来地である「瓢湖」という湖が家からもそう遠くなく、白鳥の時期になると家族で毎年出かけていた。ニュースの映像や新聞の写真は上手に撮っていて白鳥がきれいに映っているのだけど、実際に行くと白鳥よりも、ものすごい数の鴨がいてそっちがメインなんじゃないかって思うほどだったのを今でもよく覚えている。今はどうなんだろう、もうずいぶん行っていないからなあ。

瓢湖の白鳥。画像掲載元:阿賀野市ホームページ

白鳥たちが優雅に動いている様子は目に焼き付いているので、僕は想像し易い。やはりそんな経験があった上でこの音楽を聴くのと、そうでないのとでは、だいぶ受け取り方が違うのではないか。あるいは、子どもの頃はそんなに鳥を見て興奮するわけでもないし、早く帰ろうよと親に文句言っていたかもしれないけど、自分が大人になって、親になって、そしてわかるのだ、この白鳥たちを眺める時間の贅沢さに。ドーフの描く白鳥の音楽は、確かにジャジーな小品に比べたらやや退屈かもしれないけど、僕にはとても充実した聴取の時間になった。

ところで白鳥って、泳ぐとき本当にバタ足して頑張ってるのかしら。実はそうじゃなくて、マジでスイーって楽々泳いでるって話も聞いたんですけど。アルト・フルートは音色が優雅でも、吹く方は普通のフルートよりずっと大変で、頑張ってるんでしょう。僕も見えないところでバタ足してるつもりだったけど、最近は忙しい忙しいと、見えるところでバタ足してますよアピールが多いかも。柄にもなく忙しいアピールだなんて、恥ずかしいわ。ああもういいや、寝ちゃお寝ちゃお寝ちゃおー!


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Author: funapee(Twitter)
都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more

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