ロバート・ラッセル・ベネット 祝賀交響曲「スティーブン・コリンズ・フォスター」
まずは基礎知識からいきましょう。ベネットという姓の作曲家は非常に多いため「ベネット」だけの表記は推奨されない。なので名をイニシャルで付けるのだが、ロバート・ラッセル・ベネットとリチャード・ロドニー・ベネットという、どちらもR・R・ベネットという表記になる作曲家がいるため、この表記もあまりよろしくない。よってロバート・ベネットと書くことにする。当然以下ベネットと略す。ちなみにリチャード・ロドニー・ベネット(1936-2012)の方は、「オリエント急行殺人事件」で名高いイギリスの映画音楽の巨匠だ。
さて、こちらのロバート・ラッセル・ベネット(1894-1981)、以下ベネットは、アメリカはミズーリ州カンザスシティ生まれの作曲家・編曲家だ。ナディア・ブーランジェに師事し、なんと紛らわしいことに、ハリウッドで働き放送音楽用オーケストラを率いる。
しかし、こちらのベネットにはそれほど有名な映画音楽はなく、むしろ今は吹奏楽のジャンルで一番名前をよく見かけるのではないだろうか。「バンドのためのシンフォニック・ソング」や「古いアメリカ舞曲による組曲」は名曲だ。
そんなベネットの、オーケストラのための傑作中の傑作が、今日取り上げる祝賀交響曲「スティーブン・コリンズ・フォスター」である。スティーブン・コリンズ・フォスターは言うまでもなく、19世紀アメリカを代表する作曲家のフォスターのことだ。昔書いた記事はこちら。
この曲は、まあ最悪ベネットに興味がなくても構わないので、フォスターに興味のある人は、ぜひ一度は聴いて欲しい、愉快な愉快なオーケストラ作品である。フォスターの主題によるオーケストラのためのパラフレーズ、という副題が付いていても不思議ではない。まあそういう曲である。
古典的な交響曲の形式を取っており、4楽章構成。これこそがフォスターへの最上級の敬愛の念と思いたい。わかりますか?わからない人はフォスターのこと調べてくださいね。全部で20分くらいの演奏時間。
1楽章冒頭、弦楽器のトレモロに乗って木管、金管と長閑な旋律を奏でる。アメリカの田舎へひとっ飛び。序奏のテンポが上がると、いかにもフォスターファンの心をくすぐる、ブイブイ鳴らす金管の咆哮、これだよ、こういうのでいいんだよ。思わず手を打つ。ベネットのオーケストレーションの巧みさを見せつけられているなあと思った次の瞬間、「草競馬」のメロディが現れれば、もうテンションはいきなりマックス!ドゥーダー!ドゥーダー!次に聴こえるカントリー風の臭いを放つヴァイオリンと、バスドラムとシンバルのどんくさいリズム、これがたまらない。今度は落ち着いて「主人は冷たい土の中に」をコーラングレが奏でる。
2楽章カンタービレ、旋律はそう、お待たせしました「夢路より」(夢見る人)、これが本物のカンタービレだ。第2主題に「優しいアニー」、いいぶつけ方だ。まあ好きだからね、何ぶつけても文句言わないんだけどね。そこに現れるホルンによる「ローラ・リー」、うーん、たまらんね。転調して弦楽器で再び、グッと来る。
3楽章アレグレット、満を持して「おおスザンナ」登場、軽快でよろしい。伴奏の弦の刻み、ウォーキングベース、グロッケンとピチカートによる旋律に駆け抜けるトランペットのオブリガード、この巧みな管弦楽法こそベネットのアルチザンである。少しはベネットの話もしておこう。こういうテクニックだけでも楽しめる曲だ。「バンジョーをかきならせ」も入って来る。ただただ、楽しい。
4楽章はアレグロ・クアジ・レチタティーヴォ、静かなソロの掛け合いの中で早々に現れる「オールド・ブラック・ジョー」と「ケンタッキーの我が家」、あとは「故郷の人々」(スワニー河)の断片、もう役満だ。ファンファーレがクライマックスを告げると、突如、混声合唱が「ああ赤いバラよ命永らえよ」を歌い出す。おいおい第九かよ。次いで「おいで、愛する人のまどろむところへ」の合唱が、ソプラノのソロ付きで歌われる。すごい。テンポを上げて「父エイブラハムよ、我等は30万人でやって来た」のコーラスになると、間髪入れず現れるのは最後の最後に再び真打ち登場「草競馬」、そこに挟まるように挿入される「グレンディー・バーク号」はバリトンソロ付き。もうこれだけやれば終わるだろうと思いきや、ダメ押しの「ある人は」、いやはや、レチタティーヴォとはまさにその通り。お腹いっぱい腹十二分目だ。歓喜の渦に包まれて大団円。
今回、ほとんど詳しい資料なしにこれを書いたので、ぶっちゃけ間違っている可能性もあるし、当然全ての元歌を拾っている訳でもないのでご容赦願いたい。というか、せめてアメリカさんはもっと資料を出してくれ、もっと広めて欲しいですよ。
全国のフォスター・ファン必聴とタイトルに書いたが、果たしてどのくらいフォスター好きがいるのかわからない。
1960年にスタインバーグ指揮ピッツバーグ響が初録音し、その後忘れ去られていたのだと思われる。ピッツバーグ響公式が音源を某動画サイトに上げているが、これがビックリするくらい再生回数が少ない(非公式にアップされているものの方はそこそこ再生されているようだが)。
ぜひ一度聴いてみていただきたい。美しい旋律、陽気な歌にひたろうじゃないか。
Bennett: A Commemoration Symphony to Stephen Foster & A Symphonic Story of Jerome Kern
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都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more