ギリングハム ステンドグラス:音と光

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ギリングハム ステンドグラス


珍しく取り上げるギリングハムは1947年生まれのアメリカの作曲家。日本では彼の吹奏楽作品が知られているが、社会派作曲家などと言われる。
この「ステンドグラス」は打楽器アンサンブルのための作品。11人の奏者による大きなアンサンブルで、まあ現代音楽の部類に入ると思うのだが、たまたま僕は指揮として演奏する機会があり、せっかくの縁なのでここで紹介することにした。
打楽器というオーケストラではあまり主役になることのない楽器群によるアンサンブルは、音楽史では本当に周辺の周辺にある分野だ。
そして、当然のことながら作品数も少ない。名曲と呼ばれるものもあるが、あくまで打楽器アンサンブルという領域内の話。
大したことのない編曲モノや、まともに聴くのも馬鹿らしい曲も多々あるのが僕の正直な感想だ。
なかなか他の編成と比較すると恵まれない分野と言える。アンサンブルをやりたい打楽器奏者たちは、なんという事もない曲をありがたがって演奏するような状況すらある。これはやりきれない話だ。
打楽器アンサンブルの長所は多々ある。原初的な音楽に近い曲は魂を揺さぶるパワーがあるし、民族音楽の要素やミニマルの要素が活かしやすい。
また自然を模倣するという意味の芸術としては、打楽器はある程度有利だろう。それでも、そういう要素は「洗練された」印象が少ないと指摘されるのもまた事実。
今回紹介する「ステンドグラス」は、そういう打楽器の音色の持つ原始的な響きや模倣性の利点を活かしつつ、「そんなものは芸術として駄作だ」と一刀両断されないだけのしっかりとした音楽理論に根付いている。
そこはギリングハムの音楽性がなす技として、価値を認めてしかるべきだろう。


題名の通り、ステンドグラスの美や色彩を、連続した3楽章という構成で表現している。
第1楽章「ホワイエ」は、住居の入口にある様々な種類のステンドグラスがテーマ。とめどない16分音符の連続は、聴衆を音楽の奥へ奥へと導く。シロフォンとピアノが全音音階で旋律を奏でるのは、開かれた空間を意図しているようだ。
クロテイルやチャイムは、ドアベルやチャイムそのもの。三全音や属七を上手く利用した、どこに導かれているかわからないような不思議な雰囲気も面白い。
第2楽章は「大聖堂」。大聖堂のステンドグラスは、僕も唯一カンタベリー大聖堂で見たものが今でも良い思い出だが、壮大で、神秘的なものだ。離れたところから聞こえる2つの教会の鐘、透明感のあるクリスタル・グラス、そして教会オルガンのような古風なマリンバの旋律。スタティックでありながら、広がりを感じる楽章だ。
終楽章の「サンキャッチャー」は、窓際のステンドグラス風装飾のことで、屋内に光を取り込むためのものだ。
ホ長調の明るく楽しそうなメロディーは、色とりどりのサンキャッチャーによって反射した輝かしい色彩を表している。
第一主題がホ調のリディア調、変ロ調のリディア調と2度演奏されると、ピアノの高速アルペジオに導かれ、美しく歌うコラール風の第二主題が現れる。この第二主題は全楽章中最も美しい部分だろう。すると場面は一転して、ティンパニ・トムトム・テンプルブロックによる力強いフーガ。これは第一主題を意識しているリズム。ここで打楽器の原初的な楽しさも味わえる。さらに鍵盤楽器が加わって別のフーガが演奏されて盛り上がっていくと、お約束の主題再現。今度はハ長調。どんどん高揚し、煽られるようにクライマックス。鍵盤打楽器のグリッサンドが揃って奏されるのはなかなか壮観だ。
音を用いて光を表現するのに打楽器は向いているだろう。これはきちんと芸術している。名曲として数えたい。


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Author: funapee(Twitter)
都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more

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