ラヴェル ボレロ
有名なのは言うまでもないが、この曲は特に「クラシックって何をどう聴けばいいかわからない」という人にとって、とてもシンプルな答えを出すことができる曲だと思う。
つまり「メロディーを演奏している楽器を聴く」という、クラシックも含め多くの音楽の基本的な聴き方をもってして、十分に楽しめるということだ。
バンドならまずヴォーカルのメロディーを聴き歌詞を聴き、ジャズでもなんでもフロントでソロをプレイする人の格好良さを見ていればいいだろうし、慣れてきたらギターのカッティングの格好良さに注目したり、ベースとドラムの絶妙なやり取りに耳を傾けたりすればよい。
クラシックはそういう点で少しわかりにくいところがある。特にオーケストラはそうだ。あれだけたくさんの楽器があって一体何を聴けばいいのか。そもそもメロディーってどれだ。ポップ・ミュージックに比べてわかりにくいのはこのあたりだと思う。
しかし、ボレロはわかりやすい。メロディーがすぐにわかる。1つか2つのメロディーだけ、それを色々な楽器が代わる代わる演奏する。その音色の違いを楽しめばいいのだ。
ジャズで言うところの、先頭に立ってソロを吹くトランペットやサックスに魅入るがごとく、木管楽器やサクソフォン、トロンボーンのソロを楽しめばいい。上手い!と思ったソロには、心のなかで拍手をしよう。
メロディーを演奏する楽器は、重なりあい、和音を作り、雰囲気も変わるし盛り上がりも出てくる。オーケストラの魅力である数多くの楽器の音色の重なりと、ポップスでは聞き慣れないような和声的な重なりを楽しむことができる。
わかりやすさと言えば、一貫したリズムとダイナミクスの増加。徐々に徐々に盛り上がり、クライマックスには爆発する音量の力を感じることができる。
クラシック初心者には心のそこからオススメしたい作品。
入門編トークはここらへんにして、マニアック路線に入ろうと思うが、やはり話題はこの曲の楽しみ方についてだ。
1928年にバレエ音楽として作曲されて以来、バレエはもとより、オーケストラのレパートリーとして、また様々に編曲されて、多くの音楽ファンに愛されてきたが、ここではやはりオーケストラピースとしてのボレロについて語りたい。
僕は打楽器をやるから少しわかるのだが、このスネアの緊張感は凄まじい。開始直後などは特にそうだが、その緊張の持続がまたこの作品の魅力だ。
と、思っていたが、何もこの曲に緊張感だけを求めることもない気がしてきた。アンセルメ/スイス・ロマンド管のような、ある意味グダグダの演奏にも、それはそれで新しいボレロを見た気がしたのだ。
とかく舞踏音楽は、そのリズムの厳密性を問われる。しかし、バレエに用いるならそれは当然だが、バレエ組曲などをコンサートピースとして取り上げるなら、ダンサブルかどうかではない、新しい表現を追求しても良いものではないだろうか。
一糸乱れぬボレロが名演であることには違いない。マルティノン/シカゴ響やハイティンク/ボストン響などはそういう美しさがあるし、クリュイタンスの表現するフランスの美も見事なものだ。
別に下手な方がいいなんて決して言わないし、アンセルメのヘタウマ系がボレロの真骨頂だなんて口が裂けても言えないけど、これほど特殊な構成の音楽だとしても、安定したリズムだけが素晴らしいとは思えない。
不自然なテンポ設定やテンポの揺れもあるが、それが自然に感じることができたら、それもまた一興として、無限に楽しみを追求できる音楽。ボレロが名曲たる所以は、シンプルさとこの懐の深さだろう。
余談だが、あるプロオケを聴きに行った際、演目にボレロがあった。奏者の名誉のためにオケ名を伏せているけれども、そのトロンボーン奏者が、かなり危ない橋を渡るようなソロだった。本当に危なかった。なんとか渡りきって、聴衆も「ほっ」としたのだ。
そのときに彼に送られた、団員からの、聴衆からの拍手は、ブラボーとは違う意味の、あたたかみのあるものだった。いつもこんな音楽では困ってしまうが、こういうのもまた音楽の愉快な一場面である。
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都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more
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この曲のトロンボーンソロは生では上手くいく方が珍しいくらい。奏者にとって超絶技巧なことで有名な曲。
コンサート録画でもN響クラスのオケが外すことは多々。そのスリルが楽しみでもあります。(^^♪