ブローウェル 島と海:好きにならずにいられない

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ブローウェル 島と海

また誰も興味のない現代の音楽について書く。こういうのは逆に、読み手が少ない分、適当に(あ、情報には間違いがないよう心がけています)書いても何のツッコミもないので、好き勝手書かせていただく。
と言っても、さすがに今回は、「誰も興味ない」は言い過ぎか。レオ・ブローウェル(1939-)はキューバの作曲家で、自身もギター奏者であり、ギター作品を多数書いている。キューバの民族音楽色の濃い初期作品から、ノーノやクセナキスに影響された現代作品を経て、今はますます面白い音楽へと深化するクラシック・ギター作曲家界の巨匠だ。武満徹の思い出に捧げた作品が、日本を代表するギタリスト福田進一氏に献呈されているので、それらを知っている福田ファンやギターファンの方はいらっしゃるでしょう。


今月は家族で江ノ島に行ってきて、夏みたいに暑い日だったので子どもたちを片瀬西浜ビーチでバシャバシャ遊ばせて大変に結構だったのですが、Twitterは一応ブログ用のアカウントなので、日常の話をツイートした際はなるべくそれにちなんだクラシック音楽を出すようにしている。正直な話、ちょっと面倒くさくなってきたんだけど、こういうところでディグらないと、というか、たまに自分の知識内での選曲から外れた選び方をしないと、世界が広がらないんだな。だから続けている。ラジオなどで全く知らない曲に触れるのと同じだ。
そこで何とか江ノ島にちなんだものはないかなと探し、出会ったのが「島と海~ピアソラ&ブローウェル作品集」と題したアルバム。ブローウェルの「島と海」という曲をメインに据えて、ピアソラ作品も収録した、アンドレ・フィッシャー(gt)とセバスチャン・サンジェ(vc)ほかによる演奏。2019年録音。この音盤はピアソラの「リエージュに捧ぐ」(室内楽版)も収録されており、この「リエージュに捧ぐ」というギターとバンドネオンのための協奏曲の初演(1985年)でリエージュ・フィルを指揮したのがレオ・ブローウェルだそう。その時はピアソラ自身がバンドネオン独奏を務めている。そういう縁もあっての選曲なのかな。ブローウェルは80年代までギター奏者として活動していたが、指の怪我をして以降は指揮の方がメインになっているとのこと。


「島と海」(La Isla y el Mar)は、2018年にアンドレ・フィッシャー(gt)とセバスチャン・サンジェ(vc)のデュオのために作曲された、ギターとチェロのための作品。3楽章構成で20分ほど。各楽章にはタイトルが付いている。2019年1月に第1楽章のみで初演され、その時のことを振り返ってブローウェルは「あまりに完成度の高い演奏に聴衆全員が気づき、拍手喝采で、私も大いに感動した。素晴らしいデュオのための書けて感謝している」と述べている。
1楽章は“Dialogos de la Isla y el mar”、島と海との対話、このタイトルを見て思い浮かぶのはドビュッシーの交響詩「海」、3楽章の「風と海との対話」だろう。僕はタイトルを見てから聴いたので、頭の中が完全に「チェロとギターのどっちが島でどっちが海なんだろう」という疑問モードになり、その解決を主目的にして聴いてしまったが、どうも、どちらがどちら、というものでは無さそうである。初めはチェロがよく荒れるので海かなと思ったが、全体を聴いているうちに、2つの楽器が溶け合っていくような、差が無くなっていくように感じられた。それには特殊奏法による効果もあるのだろう。両楽器の音の響きを探究した結果なんだろうなということは伝わってくる。
そういう融合的な響きのせいか、チェロとギターという楽器なのに、どこか邦楽のような趣きすら感じさせる。ドビュッシーのジャポニズムを飛び越えている、なんて言い方は違うだろうが、揺れる単音のチェロにふと重なるギターの爪弾く音、どこか幽玄ですらある。瞑想的な瞬間もあれば、リズミカルな瞬間もある。
2楽章は“Manuscrito de la Isla y el mar”、これはどういう意味なのだろう。直訳すれば「島と海の写本」とか「島と海の原稿」ということになるが……いくぶん強めの「現代音楽」らしさもあるが、同時に伝統的・古典的な雰囲気も1楽章よりはっきり描かれる。両楽器の音響的な接近もいっそう感じられる。アタッカで終楽章へ。
3楽章は“Immenso mar de agua y fuego”、「水と火の巨大な海」、これもよくわからない。タイトルは謎だが、音楽的には民族音楽的でわかりやすいかもしれない。生演奏を見ていればわかるだろうが、録音だけ聴くと、敢えてどちらの音なのかわからないように作っているように思える。いや、普通にわかるけれども、そのくらいの寄せ方をしている。その効果が、リズムやテンポにおいて穏やかな前2楽章ではただ面白いと思うだけだったのが、3楽章で拍や旋律がはっきり意識されると、ちょっと互いに邪魔なんじゃないかという気がしてきて、なお可笑しい。良い意味で、変な曲だ。


あまり深く考えてもしかたないので、作曲者のコメントを紹介しよう。ブローウェルはチェロとピアノのためのソナタとして、こういう音楽を作りたかったそうだが、結果的にチェロとギターのデュオになったと。「ソナタ」にしなかったのは、そう分類されないようにするためで、保守的な聴き手や演奏家はソナタ形式を非常に尊重するので、と。そう言いつつも、伝統的形式からは離れているが3部構成なのでソナタと付けた方がより適切だったかも、と。
以上のようなコメントを見て思うに、結構適当なんじゃないか(笑) まあでも、そういうものかもしれない。ちなみに、全楽章で、過去のブローウェル作品が引用されている。使い回しかよ! と文句を言えるほどブローウェル作品に詳しい人はそうそういないだろう。
未知の現代音楽は、どうしても色々考えて聴こうと努めてしまうこともあるが、こういう音楽こそまず無心で聴きたいところ。そして、もっとフランクにというか、気軽に聴く機会を増やしたいものだ。そんな気持ちもあるので、江ノ島経由でこの「島と海」を聴いたのも悪くないなと思っている。カリブ海とはかけ離れているが、そもそもキューバの作曲家だからといってカリブ海と決めつけるのも良くない。ドビュッシーを意識してフランスの海かもしれない。そういえば江ノ島は日本のモンサンミッシェルなんて言われる。ほら、だいぶ近づいたぞ。


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Author: funapee(Twitter)
都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more

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