再発見“戦前日本のモダニズム” 忘れられた作曲家、大澤壽人

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大澤壽人:ピアノ協奏曲 第3番 変イ長調「神風協奏曲」/交響曲 第3番


サントリー芸術財団のサマーフェスティバル2017、ザ・プロデューサー・シリーズの「片山杜秀がひらく〈日本再発見〉」、再発見“戦前日本のモダニズム” 忘れられた作曲家、大澤壽人、というコンサートを聞いてきました。大澤壽人という稀代の天才作曲家の曲が、ついに生で聴けると、このチャンス逃してなるものかと、なんとかかんとかやってきた次第です。NAXOSの日本作曲家選輯のCDで大澤の神風協奏曲に出会ってから、一時期はハマってしまってよく聴いていました。この隠れた名曲を生演奏で蘇らせてくれたことへの感謝と、コントラバス協奏曲と交響曲第1番という未だ知らぬ秘曲の世界初演を聴ける感謝、これに尽きます。片山先生はじめ、この企画に関わった全ての方々、素晴らしい企画をありがとうございました。


【再発見“戦前日本のモダニズム” 忘れられた作曲家、大澤壽人】(2017年9月3日、サントリーホール)
大澤壽人(1906-53):コントラバス協奏曲(1934)
大澤壽人:ピアノ協奏曲 第3番 神風協奏曲(1936-38)
大澤壽人:交響曲 第1番(1934)
指揮=山田和樹
ピアノ=福間洸太朗
コントラバス=佐野央子
日本フィルハーモニー交響楽団


さて、改装後の久しぶりのサントリーホールで、久しぶりのよなよなビアガーデンでアークヒルズエールを飲み、クラヲタの先輩ともご挨拶でき、充実したカラヤン広場での時間を過ごしたところで会場入り。当日券行列もできていて、たくさんの人が大澤壽人の音楽に興味を持っていることに嬉しくもなります。1曲めのコントラバス協奏曲、まったくどんな曲か予想もせず、真っ白な気持ちで聴きましたが、創意工夫あふれる佳曲でしたね。これが1934年とは恐れ入りますが、そういう「こんな時期にこんな曲を書いてたなんて天才だ」という論調ばかりもつまらないでしょうし、ちょっとサントリーホールでやるには音響的に厳しいかなとも思いました。編成は小さく、ソロの音が聴こえるようによく配慮された演奏だったとは思いますし、僕はかなり前列だったのでよく聴こえましたが、本来はもっと小さい箱で、室内楽的にやるのが相応しい曲でしょうね。しかし面白い作品ではありました。


さて、待望の神風コンチェルトは、何はともあれソロの福間さんのピアノが素晴らしいの一言です。上手い。上手過ぎて、耳タコだったNAXOS盤が霞んでしまいますね。随所で「おお、これはこういう音楽だったのか」と、はっとさせられました。ある程度硬質で歯切れのよいピアノがこの作品の魅力をぐっと引き出してくれたみたいですね。2楽章の冒頭サックスソロに、今をときめく上野さんを起用できる、この豪華さにもやられました。若干、ほんの若干ですが、自己主張のあるサクソフォンは印象的でした。まああとは、2楽章ってすごく縦の線合わせるの難しいんですよね。NAXOSの録音だとばっちり合ってるんですが、ライブではまず無理でしょう。ということをよく理解しているつもりですので、僕はあまり気になりませんでした。とにかくピアノの大ブラボーですね。大変素晴らしい演奏でした。


それにしても、交響曲第1番はまたキレッキレの、濃い音楽で驚きでした。岡田暁生先生も絶賛の「戦前関西山手モダニズム」とは、まさにこのことです。これは作曲当時、ニューイングランド音楽院の学生オケでは手に負えなかったというのも納得です。打楽器やレアな管楽器も惜しげなく使い大編成で大音響を轟かせたかと思えば、風変わりな響きやコロコロ変わる調性で飽きさせない、良いですね。第2、第3交響曲よりもトガッた曲に聴こえましたが、それこそNAXOS盤以上にキレのあるヤマカズ/日フィルの演奏のおかげかもしれません。熱演でした。とても良い瞬間にいあわせることができて大満足です。


大澤壽人はそんな感じで大盛り上がりでしたが、下野氏が振る、別日に行う同企画の別プロには、そもそもの選曲について非難もあったという話を聞きました。プログラム冊子の下野氏の文章を読むと、「何故今、尾高や山田や伊福部や諸井なのだ」と非難の声もあったと書いてあります。にわかには信じられませんね。この辺の邦人作曲家についてある程度の教養があれば、下野氏の日のプログラムを見て、少し考えればすぐ理解できるはずです。サントリー芸術財団サマーフェスティバルは、現代音楽の祭典かもしれませんが、まあ現代音楽を好みながら、当の現代が見えない滑稽な人もいるものですね。残念です。まあしかし、片山先生のチョイスする作曲家の音楽は、どれもホンモノばかりですから、そういうホンモノが演奏されてホンモノが聴ける機会が増えて、できればそんな作品が西洋芸術音楽の系譜に位置づけて聴ける、意味のあるコンサートが増えて欲しいと願うばかりです。

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Author: funapee(Twitter)
都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more

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