指揮の鈴木先生からお誘いを受けたので、実に2年半ぶりくらいに名古屋へ。名古屋近辺のプロ奏者たちが集まって作る吹奏楽団の、いわゆる旗揚げ公演というやつですね。僕は名古屋の音楽事情には詳しくありませんし、愛知県芸術劇場も初めて赴きましたが、後ろの席のおじさんが「名フィルよりも人入ってるぞ」と言っていました。まあ名フィルの名誉のためにも、名フィル定期は2日公演だからトータルでは人入っているという事実を付しておきますが、ともあれ、客席の入りはすごかったですね。中高生らも大勢いたように思います。良いことです。
【マスターズ・ブラス・ナゴヤ 第1回定期演奏会】
(2016年4月10日、愛知県芸術劇場コンサートホール)
R・シュトラウス(鈴木英史編):祝典前奏曲 作品61(編曲委嘱初演)
三枝成彰(長生淳編):トランペット協奏曲(ユーフォニアム・ヴァージョン)
J・バーンズ:交響曲第5番「フェニックス」作品110
アンコール
伊藤康英:オン・ザ・マーチ
音楽監督・指揮:鈴木竜哉
ユーフォニアム:安東京平
特別出演:愛知工業大学名電高等学校吹奏楽部
R・シュトラウスの祝典前奏曲は、ウィーンのコンツェルトハウス(良いホールです。マゼール指揮ウィーン・フィルを聴きました)の落成式のための曲で、大編成オケにオルガンとバンダという巨大編成。ゆえに実演も少なく、断定できませんが日本では93年にサヴァリッシュがフィラデルフィア管と来日した際サントリーホールでやったくらいじゃないでしょうか。それを編曲委嘱して吹奏楽でやるってんだから本当に恐れ入ります。第1回演奏会の第1曲目、オルガンとバンダ(愛工大名電の吹奏楽部の子らだそうです)を入れて、大見得を切りきってやったぞ!といったところでしょう。泣く子も黙る圧倒的なスケールでした。
三枝のトランペット協奏曲のユーフォニアム版は、外囿さんが航空自衛隊航空中央音楽隊とやるために編曲されたものだそうで、10年ほど前にすみトリで演奏して拍手喝采だった曲とのことですが、当然めちゃ上手い伴奏とめちゃ上手いソリストじゃないと再演は到底不可能な曲で、技術の高さと集中力にはただただ感心するばかりです。舌を巻きます。そして休憩後、プログラム最後のバーンズの交響曲第5番、これは不死鳥のように蘇った日本の戦後復興をテーマにした作品で、バンダのトランペットにさらにチャイムも加わり、この長大な作品を見事に演奏されておりました。4楽章は君が代の主題がモチーフで、日本人の心に訴えるものがあったように思います。アンコールは指揮者さんのお気に入りのオン・ザ・マーチでした。
上手い吹奏楽団体はプロアマ問わず数あれど、これほど意欲的な選曲のコンサートにはそうそうお目にかかることはありません。R・シュトラウスの曲も滅多に演奏されませんし、僕は何より、会場にいたたくさんの中高生たちが、きっと彼ら彼女らも吹奏楽か何かしらの音楽をやっている子らでしょうが、そんな子たちが、圧倒的に巧い音にオルガンと別働隊のラッパが上から鳴り響く、思わず息を呑み感嘆するシーンを見れたということに、一つ大きな意義があったように思います。吹奏楽にしては演奏時間の長い作品が3曲で、子どもたちには難しかったかもしれませんが、そうした壁を演出と演奏で乗り越えようとしている気概を感じました。「吹奏楽ってこんなにすごいんだぞ!」「本当の音楽ってのはこういうものだぞ!」と聴衆に訴えて、聴衆もそれを実感できた演奏会だったんじゃないでしょうか。P席にいたちびっ子が、途中あくびとおねんねを繰り返しつつも、バーンズの最後ではウキウキと手を振っていたのが印象深かったですね。
思うにユーフォニアムは、(他に出番が少ないという意味でも)吹奏楽を象徴する楽器です。だからこそ吹奏楽アニメは「響け!ユーフォニアム」で正解なんだと思いますし、旗揚げ公演でトランペットでもクラリネットでもなく、ユーフォニアムの協奏曲を敢行したことにも賛辞を送りたいです。そしてもう一つ、バーンズの第5交響曲の終楽章に、君が代のモチーフで木管楽器のソロが続く場面があるのですが、オーボエのソロのフレーズがペール・ギュントの朝のようで、「おお、まるで日本の夜明け(ぜよ)」なんて思いました(適当)。日本の吹奏楽の夜明けを導いて欲しいですね。これからも素晴らしい“本物の”音楽を奏でて、微妙なコンクール向け音楽が氾濫する日本の吹奏楽界をフェニックスのごとく蘇らせていくのを期待しています!
ちなみに、お昼ごはんに、こないだケンミンショーに出てたお店で味噌カツカレーを食べてみました。ほんとに見たまんま、味噌カツとカレーの味がしました。美味しかったです。
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都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more