たまたま行ける日に、こんな珍しいコンサートがあるなんてラッキーと思い、行ってみることにしました。テューバのソロコンサート。白井翼さんは第20回東京音楽コンクール金管部門第3位及び聴衆賞の方だそうです。ポスターに載っている白井さんの宣材写真を見て、僕は「志村正彦に似ている……」と思い、これは聴きに行くべきなのではないかと思ったのであります。似てるよね?
【上野 de クラシック Vol.89 白井翼(テューバ)】
(2023年12月19日、東京文化会館小ホール)
二クラス・シーヴェレフ:3つの舞曲
アレクセイ・レベデフ:協奏曲第1番
トルビョルン・イヴァン・ランドクヴィスト:ランドスケープ
ラフマニノフ:チェロ・ソナタ ト短調 Op.19より 第3楽章
薮田翔一:Tsubasa(委嘱作品・初演)
アンコール
アルベニス:チャント・ダ・ムール
テューバ:白井翼
ピアノ:秋山朋葉
白井さんは北海道出身、今回は冬の演奏会だし雪国の作曲家を中心に、音楽的に優れた作品を選んだとのことです。ということで、雪国生まれの僕としては、ちょっと期待も大きくなります。1曲めはシーヴェレフの3つの舞曲、知らん曲だなあと思っていましたが、後で検索したらボーツヴィックのCDに入っている曲でした。あのメタルみたいなジャケット(↓)のやつだ……ピアノはシーヴェレフ自身が演奏していました。そんなことは殆ど忘れていたので実質初めて聴く曲、色んな曲調や奏法が出てくる舞曲集、面白かったです。
続いてレベデフの協奏曲第1番。白井さんは、これは知ってる人がいるかもとお話されていましたが、その界隈の人でなければ絶対知らないと思いますよ……まあでも、その界隈の人が主に聴きに来ているのではと言われたら、そうかもしれない(笑) こちらはロマン派風のメロディが美しい曲。今日の演奏会は、やや現代っぽい曲とロマン派っぽい曲が交互にプログラムされていて、バランス良かったですね。
次はランドクヴィストのランドスケープ、この曲は白井さんの先生のお一人でいらっしゃる玉木亮一さんという札響の奏者の方がCDで出していて、タイトルにも入れて「これは自分の曲だ」と仰っていた、というエピソードを話してました。北国の人にとって共感するものがあるのでしょうね。北国の風景、自分の中のランドスケープを思い描きながら聴いてください、と話してから演奏。白井さん自身も思い入れがありそうでしたし、僕も久しぶりに故郷新潟の冬の景色を思い浮かべながら聴きました。僕は北海道に行ったことないので、きっと新潟の冬より寒いだろうし、やっぱ北欧に近いのは北海道の方だよなあ、なんて雑念も浮かんだりしたのですが(笑) でも、そんな風に懐かしい光景を思い浮かべながら聴くのは、とても良いものでした。この日の上野も比較的寒い日で、会場内は空調効いてるとはいえ、この曲で更にグッと冷え込んだような、そんな音世界だったと思いますね。なおのこと、次のラフマニノフのソナタの3楽章アンダンテは温もりがありました。チェロの音色に寄せてみましたと話していましたが、とても柔らかくて美しい、素晴らしかったですね。今年はラフマニノフ生誕150年ですからね、聴けて良かったです。最後は薮田翔一さんという作曲家の方によるTsubasa、委嘱初演。籔田さんも会場に来られていたようですね。コンクールの審査員をされていて、そこで繋がって今回の曲が出来上がったそうです。白井さんは、常に動き続ける音楽が鳥の翼のよう、自分の名前だとちょっと恥ずかしいんですけどと言っていて、なんかね、その初々しさというか奥ゆかしさに、勝手に雪国の青年らしさを見出して謎のシンパシーを感じて嬉しくなってしまったのです……が、ああ、ああ、そういえば僕はもう雪国嫌いだし青年でもないし、ただのおじさんだったと冷静になるのであった。曲はピアノもテューバもとても激しい、よくわからん凄い曲でした。ちょっとピアノがショパンっぽい瞬間があってフフフって感じだったのですが、基本的には凄い攻め攻めな曲。白井さんのための曲ですからね、どんどん演奏して、将来このローマ字表記のTsubasaという曲名に気恥ずかしさを感じないくらいのおじさんになっても、吹き続けてほしいですね。
アンコールはヨーロッパの鉄道で移動中にシャッフル再生で聴いて「これだ」と即決したという、アルベニスのチャント・ダ・ムール。いいじゃん、最後に南国の曲で。暖かく過ごしてね、ということですね。僕は結構、低音の金管楽器好きなので(昔アマチュア主催のバリチューバアンサンブルの演奏会にドラムと打楽器のトラで呼んでもらったこともある)、最初からテューバに対する印象超いいんですけど、そうでない普通に来てみたっていうお客さんたちはどんな印象なんだろう。今日の演奏できっとテューバって凄いなと思ってもらえたんじゃないかと。ピアノの秋山さんも素敵でした。黒の衣装も今回の雪国音楽リサイタルの雰囲気に合ってたと思います。ピアノの高音とテューバの低音が合わさる瞬間の魅力って、なんとも言えず面白い、オーケストラでは味わえないもんなあ。こういうコンサート、たくさん聴いてみたいですね。白井さんは今芸大の4年生だそうです。これからも活躍して、テューバの魅力を広めてくださいね!
都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more