ラヴェル:ピアノ協奏曲、左手のためのピアノ協奏曲、古風なメヌエット、クープランの墓他

ラヴェル 左手のためのピアノ協奏曲


誰かがそう言っているのを聞いたことがないが、僕はこの「左手のための協奏曲」を、ラヴェルの最高峰として挙げたい。
1931年、戦争で右手を失ったピアニスト、ウィトゲンシュタイン(哲学者ウィトゲンシュタインの兄)の委嘱作品であり、以降左手のピアニストたちの重要なレパートリーとなっている。
ラヴェルのピアノ協奏曲というと、もう1つ、あの冒頭のインパクトが強烈ないわゆる「両手」があるが、そちらは3楽章構成であり、「片手」は単一楽章の約20分程の曲である。
コントラバスとコントラファゴットの蠢きから始まり、徐々に盛り上がって来たところで、ピアノのカデンツァが堂々と登場する。
左手だけとは思えない、美しい多声の音楽と超絶技巧が展開されると、今度はジャズの要素あふれる主題、可憐な東洋風の主題、と移り変わり、再びピアノの繊細なカデンツァになる。
胸に染みいる主題と、圧巻のピアノのカデンツァが、この曲の最高の魅力だ。


左手だけで鍵盤の端から端まで縦横無尽に駆ける様子は、ダイナミックで目が離せない。
目でも魅せるラヴェルの素敵な演出が味わえる。
それでいて、目を閉じれば、左手だけとは思えないようなピアノ。
一体目を見開いていればいいのか、それとも閉じていたらいいのだろうか。
また、当然だが、これは両手でも弾ける。それはそれで表現の幅に広がりが出るだろう。
だが、左手だけでしかなしえない表現というのも、もちろんあるだろう。
そこのところ、実に奥深い作品である。
さらに、晩年のラヴェルの卓越したオーケストレーションと、ラヴェルの作品の中でも抜群に色濃く感じられる精神性が、自然に調和しているのが、この「左手のための協奏曲」に思う。
ラヴェルの作品は、僕も大好きなのだけれど、どうしてもドビュッシーより好きになれないのは、主題や管弦楽法が、ドビュッシーやフォーレよりも深い意図を感じられないからだ(但しラ・ヴァルスは別格)。
もちろん、それらは非常に素晴らしいものだし、聴く分には楽しいのだけれどね。
その点、この「左手」は、ラヴェルの緊迫した精神性が恐ろしいほど感じられる曲だ。
「オーケストレーションの天才」の才能が、最も活かされているといったところである。
ライヴを聴いたときは、自然と目が釘づけになったり、閉じたりした。あれは幸せな時間だった。

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