Sonaten fur violoncello und klavier


シュミット=コワルスキー チェロ・ソナタ第3番 ロ長調 作品99「アトランティス・ソナタ」


トーマス・シュミット=コワルスキー(1949-2013)という作曲家をご存知だろうか。ドイツのオルデンブルクに生まれ、ベルリンやハノーファーでアルフレート・ケルペンらに学んだ。ケルペンも十分マニアックな作曲家だと思うが、その弟子となるといよいよ知られざる領域である。
僕が初めて彼を知ったのは10年くらい前だが、その頃はネットで検索してもほとんど日本語の情報はなかった。今は少ないながらも複数ヒットするので、10年あれば変わるものである。以前から音楽はナクソスの配信で聴けたものの、CDはドイツのローカルなのでドイツ語表記しかなく、それで日本での広まりが制限されていたのではないだろうか。2011年に松本大輔氏が「まだまだクラシックは死なない!」で彼の管弦楽作品集を紹介してから、ネット上にもじわりじわりと取り上げる人が現れている。満を持して(?)、僕も紹介しよう。
松本大輔氏は「ロマン派の時代の作品よりもロマンティック」「これはパロディーなのか? 冗談音楽なのか?」としつつも、「皮肉っぽい雰囲気はない」「ちょっと大丈夫か、というくらい真剣」と書いている。そう、20世紀後半から21世紀に入っても活動した作曲家だが、徹底的にロマン派のエピゴーネンを邁進した、愛すべき時代錯誤者なのである。
管弦楽曲や協奏曲、室内楽曲など広く作曲し、1986年にはワルプルギス・アンサンブル(Walpurgis Ensemble)を立ち上げ、自作の発表に勤しんでいたようだ。来日予定があると2009年に出た管弦楽作品のCDに書かれていたが、2013年に他界しており、実現したのかどうかも不明である。なお2007年9月に現田茂夫指揮神奈川フィルが交響曲第4番の日本初演を行っている。また2009年の長崎おぢか国際音楽祭では室内楽曲の「夢のファンタジー」(これまたすごいネーミング)が演奏されたそうだ。

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僕はシュミット=コワルスキー作品で最初に聴いて感銘を受けた「星降る夜」というオーケストラ曲を紹介しようかとも思ったが、ここは敢えて、ネット上であまり取り上げられていない室内楽作品、チェロ・ソナタを推したい。第1番から第3番まであり、第1番は1977年、第2番は1981年の作。今回紹介する第3番は晩年の2005年に作曲され、このCDの演奏者であるアレクサンダー・ベイリーに献呈されている。
「アトランティス・ソナタ」という副題がある。あの失われた帝国アトランティスのことだが、シュミット=コワルスキーにとっては「古き良き理想国」といった意味合いだろうか。21世紀になって未だにシューマンやブラームスと同じ手法でドイツ・ロマン派にしがみつく彼らしいと言える。同じく2005年に作曲された管弦楽曲「アトランティスの回帰」もそうだが、ロマン派は彼にとってユートピアなのだろう。


1楽章アダージョ、ハイトーンで、もうメタメタに耽美なメロディで始まる。まるでワーグナーのジークフリート牧歌の冒頭をも思わせる(なお「星降る夜」も似たような開始である)。美しい旋律の第1主題を、今度はピアノが弾いてチェロがオブリガード……そんなお決まりも、この美メロであれば大歓迎、説得力がある。しかしこの音域はチェロもやりづらいだろう、ヴィオラかヴァイオリンでも行けそうである。もしかするとそれらでも弾かれることを意識したのかもしれない。上昇するコードは「ブルックナーの緩徐楽章かよ」と言いたくもなる。当然、シュミット=コワルスキーの交響曲は予想通りのブルックナー風なので、興味のある方はそちらもどうぞ。いやしかし、これこれ、これですよ。この溢れるロマンこそ、僕が惚れた1番の理由。ただひたすらに、それが続く。それが良い。
2楽章はスケルツォ楽章。ご多分にもれず、軽快に動くピアノに、チェロはピッツィカートや速いスケールなど。しかし和声進行だけは、やたら泣きメロのごとく進む。これが持ち味。
3楽章はフィナーレ、アンダンテ。緩-急-緩の構成、やはり作曲者自身も、自分の音楽性が最も発揮できるものが何かを理解しているのだ。このアンダンテ楽章はまるでノクターンのような装いもある。もはやテレビドラマの感動的なシーンでBGMとして流れていそうだ。陳腐か? そう思う人にはそうだろう。そんな言葉ひとつで棄ててしまうのは逆にナンセンスだろう。1音1音確かめるようなチェロの旋律から、ピアノと複雑に絡み合うシーンもあり、ロマン派じゃないのに、ロマン派チェロ・ソナタの魅力が詰まっている。夢見るような夜の歌は、時に激しく想いを吐露することもあるが、常に幻想的な、優しい愛に満ちている音楽だと思う。
3つのソナタのうち、第1番も第2番も良い曲だと思うが、第3番が最もコテコテで、小っ恥ずかしくなるくらいロマンティック。それでも、オーケストラほど大げさではないところに、ちょっと奥ゆかしさもあるような……。

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