スタンチンスキー 練習曲 ロ長調:星の瞬き

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スタンチンスキー:ピアノ作品全集 第1集


スタンチンスキー 練習曲 ロ長調(1909)


アレクセイ・スタンチンスキー(1888-1914)というロシアの作曲家を紹介しよう。生没年を見てもわかるように、若くして亡くなった作曲家である。そして非常に楽才に溢れていた。最近はスタンチンスキー作品を取り上げる演奏家も増えてきているので、ぜひ聴いて欲しい。
幼少期からピアノに触れ、モスクワ音楽院でジリャーノフとタネーエフに学ぶ。メトネルやアレクサンドロフといった今や有名な作曲家たちも学友であり、スタンチンスキーの才能を認めていた。フェインベルクやプロコフィエフも作品を取り上げたり影響を受けたりしている。
将来有望だったスタンチンスキーの人生を狂わせたのは、1910年に父親が突然亡くなってしまったことだった。ちょうど結婚や家族に関わるいざこざもあり、精神を病んでしまったスタンチンスキーは、作曲も続けてはいたが1914年に原因不明の溺死でこの世を去る。
残っている作品はピアノ曲がほとんどで、それも大作は少なく小品がメインである。しかしそのどれもが、卓越した音楽性を発揮した作品で、ロマンティックでありまたロシアの民族的な素材や古い教会音楽に由来する旋律を上手く活かしながら、対位法やポリフォニーも駆使したオリジナリティの濃い音楽になっている。
夭逝したから言われるのかもしれないが、ストラヴィンスキーとプロコフィエフのリズムとイントネーション、ショスタコーヴィチとバルトークの構造とポリフォニー、ヒンデミットの調和の概念を予期する作曲家だと、ロシアでは絶賛である。


スタンチンスキーのまとまった作品集録音というと、ブルメンタール盤(1992年)や、つい数年前に出たデルジャヴィナのものがあり、僕は放送も含めデルジャヴィナの録音をよく聴いていたが、昨年出たソロヴィエヴァによる作品全集(第1集)が素晴らしかった。
前奏曲や練習曲、マズルカやその他標題のある曲などがラインナップ。中には世界初録音となる曲もあり、今回あえてその世界初録音から紹介する曲を選んだ。もちろん、この曲以外にも素敵な曲はたくさんあるので、特にソナタなんかはぜひ聴いていただきたい。
いやしかし、この練習曲 ロ長調(1909)は、昨年初めて聴いて、ハートを射抜かれてしまった。この表現もどうかな。どちらかというと、じわじわとハートを侵食するような、音楽に手を引かれ別世界へ連れていかれるような、そんな感覚だ。
練習曲、エチュードだが、ショパンのような華麗な印象ではなく、むしろショパンで言えばノクターンのような静かな作品だ。静かだが、全てが煌めいている。星空だった。むしろ銀河だった。ピアノの高音域による表情豊かなメロディは星の瞬きに見えた。あらゆる調へ移り変わりながら様々な色を放ち、ポリメトリックな音は平衡感覚を奪い、気づけば足は地面から離れて身体は浮かんでいくのだ。
浮遊感はあっても、不安ではない、どこか不思議な安心感さえある。それはポリリズムでありながらも、この曲の持つ調和のとれた構造がもたらすものだろう。複雑な線画を基に、精巧に作り込まれた金細工のごとく、立体感のあるテクスチャ。弾くのは大変そうだが、僕は聴くだけなのでどっぷりと浸かるのみ。
ほんの数分間のトリップ。これだけでも、スタンチンスキーの天才を感じうるだろう。

Stanchinsky: Piano Works
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Author: funapee(Twitter)
都内在住のクラシック・ファンです。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、つまりひたすら聴くだけ。演奏することにはほぼ興味・情熱はありませんが、それでもときどきピアノを弾いたり、バンドでドラムを叩いたりシンセサイザーを演奏したり、あるいは作曲・編曲をしたりします。more

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