クレメンティ ピアノ・ソナタ ト短調 作品50-3「見棄てられたディドーネ」:私を見棄てないで

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クレメンティ ピアノ・ソナタ ト短調 作品50-3「見棄てられたディドーネ」


ムツィオ・クレメンティ(1752-1832)の作品を取り上げよう。ピアノを習ったことがある人はクレメンティのソナチネを弾いたことがあるかもしれない。僕も昔弾いた。それらはOp.36の6つのソナチネである。
今回取り上げる曲はソナチネではなくソナタ、「見棄てられたディドーネ」というタイトルも付いている、クレメンティのソナタの中で最も有名と言っても過言ではない作品であり、またクレメンティの最後の作品でもある。
クレメンティは100曲近くソナタを作曲しており、今は配信も含めかなりたくさん聴くことができる。便利な時代である。
その中でも、このOp.50-3「見棄てられたディドーネ」は最も演奏されている作品であり、聴き比べも楽しめるほど。ぜひ気軽に聴いてみていただきたい。


クレメンティの日本語のWikipediaを見てみると、「作曲家・ピアニスト・教師・編集者・出版業者・楽器製造業者」と書いてあり、実は音楽に関することなら何でも手掛けていましたという程の大人物なのである。
そんなことはつゆ知らず、子どもの頃からピアノ習っている子は大体学校のピアノで一度は「ドーミドソッソ、ドーミドソッソ」を弾いて遊んだりしたことだろう。今もそうなのかしら。子どものおもちゃ扱いだが、実は偉大な人物なのだ。
クレメンティが作曲以外に幅広く活躍したのを知ったのはもちろん僕も大人になってからだが、今回曲を取り上げようと思ったきっかけは、クレメンティの製作した楽器での録音を聴いたことである。
今朝もクラシックカフェの再放送を聴いていたら、ベートーヴェンが1818年にブロードウッド社から6オクターヴ音域のピアノを贈られて喜んだという話を紹介していたが、クレメンティもまた1810年に6オクターブのピアノを製作しており、それを使用した録音を聴いた。
この楽器をクレメンティが作った1810年当時は、音楽教師として既に高い名声を得ており、ロンドンに住み始めた頃。6オクターブのスクエアピアノで、J.Challisが米国のアンティークショップで発見し、1950年にリペアしてからはカナダにあるそう。
録音は、ドイツ生まれカナダのピアニスト、ジョン・ニューマークが弾く、バッハ一族の作品とクレメンティの作品。元はLP盤だが、今は配信もされているようだ。こんな演奏を聴くのもまた楽しい。


曲は3楽章構成。副題にもあるように、この曲の主題になっているのは、古代ローマの詩人ウェルギリウスの叙事詩『アエネーイス』である。トロイアの英雄アエネーアースと恋に落ちたカルタゴの女王ディドーネが、イタリアへ旅立つアエネーアースに棄てられて、自らの命を絶つという話。
“Didone abbandonata”scena tragica と付されている。楽譜に具体的な場面場面が書かれているわけではないが、まさにオペラのように、1楽章はIntroduzioneから始まる。レチタティーヴォのようだ。
2楽章アダージョ、D音の連打、悲しみの幕開け、またしてもレチタティーヴォ的に心情が語られているような音楽。高音域も活躍する、ここはフォルテピアノ演奏の聴かせ所でもあるだろう。
3楽章アレグロは、クレメンティの遺書などとも言われるが、悲劇的な心象風景を描く音楽の中に、様々な形式やピアノの技法が詰め込められたクレメンティ作品の白眉。僕も詳しくはないがクレメンティの当時の奏法等は研究されているようで、ぜひクレメンティの奏法で、そしてクレメンティのピアノで、という録音が現代にも登場するといいなあと思う。なにせニューマークの録音は1960年代、もうそれから60年くらい経っているのだ。ぜひ見棄てないで……いや、僕が知らないだけで、あるのかしら。知っている方いたら教えてください。

Author: funapee(Twitter)
都内在住のクラシック・ファンです。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、つまりひたすら聴くだけ。演奏することにはほぼ興味・情熱はありませんが、それでもときどきピアノを弾いたり、バンドでドラムを叩いたりシンセサイザーを演奏したり、あるいは作曲・編曲をしたりします。more

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