コープランド エル・サロン・メヒコ
20世紀のアメリカ音楽を模索し続けた作曲家、アーロン・コープランドの代表作の1つである。
メキシコシティにあるダンスホール「エル・サロン・メヒコ」の雰囲気を描いた10分程の管弦楽曲。
この独特の雰囲気が実に面白い。
陽気な旋律や強烈なリズムは、メキシコを知らなくとも思わず納得するほどエキゾチック。
メキシコ民謡を題材としつつも、かなりコープランド自身の情景描写が色濃い作品である。
コープランドが表現したかったのは、メキシコの民族音楽や伝統といったものではなく、ダンスホールの楽しげな雰囲気だったようだ。
この曲、確かにいい曲なのだが、どうも煮え切らないところがある。
まず、面白いことは面白いし、大衆受けも悪くない感じなのだが、「中身が何もない」のである。
別に中身が無いのは特に悪いことではないし、空っぽだけど素敵な曲というのはたくさんあるしね。
コープランド自身がメキシコ旅行で感じた異国情緒の面白味や、彼が楽しんだ空気を表している音楽がこの「エル・サロン・メヒコ」であり、それ以上でも以下でもない。
だから、なんとなく良い雰囲気があるだけで、魂を揺さぶるほどの何かがあるかといわれたら、そうは感じない。
様々な旋律(情景)が移りゆくように流れ、ちょうど目を丸くして物珍しいダンスホールを眺めているようだ。
全体の統一感の無さや中途半端な盛り上がりが中身の無さの由縁であり、同時に魅力の1つでもある。
また、演奏する側と聴く側で楽しさの差が大きすぎるような気がしてならない。
そもそも変拍子が多く、フレーズの掴み方も難しい曲で、「そこそこ」以上の演奏に出会うのも難しいのだが、まあそれはともかく、演奏する側は楽しいだろう。
特に、頻繁にあるソロでそう思う。トランペットにしろクラリネットにしろ、いかにも(奏でるのが)楽しげなソロである。
だがその割に聴く方としては、「いい雰囲気」以上のものがないのである。なんだか勿体ないというか、これには煮え切らなずにはいられない。
メキシコ一有名なダンスホールにいる人々の様子を想像しても、きっとそんな感じなのかも知れない。
踊り子にしても客にしても、彼らはきっとアメリカ人旅行者よりも、ずっとずっと楽しんでいることだろう。
そんな理由があってどうも納得行かない点はあるのだが、それでも良い作品である。
聴けば聴くほど、この雰囲気に酔う楽しみが見いだせてくるのだ。
この曲に限っては、なんとなくそれらしい雰囲気を楽しむのが、表現巧みなコープランドの望みでもあるのだろう。
Aaron Copland: El salon Mexico/Appalachian Spring/Rodeo/Dance Symphony Aaron Copland,Antál Dorati,Detroit Symphony Orchestra Decca |
都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more