グローフェ 組曲「グランド・キャニオン」:大峡谷と太陽

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グローフェ:組曲「グランド・キャニオン」/ミシシッピ組曲/ナイアガラ大瀑布

グローフェ 組曲「グランド・キャニオン」


何も行ったことがないことを僻んで言うのではないが、実際に行かなくてもその様子が眼前に広がるというのが、グローフェの観光音楽の素晴らしさである。
もちろん行ったことがあれば音楽を鑑賞するうえでより良いのかもしれないが、グランド・キャニオンの最も美しい光景とは何か、この曲を聴きさえすれば想像するのも容易い。
1931年、ポール・ホワイトマンの勧めで作曲し、シカゴで初演。大人気となり彼の代表作となった。
グランド・キャニオンは今は国立公園だが、1919年に指定されるまではあまり人が行くこともない土地だったらしい。
彼は少年時代にグランド・キャニオンに行き、その雄大な光景に感動したとのこと。約350kmの峡谷は、日本でいえば東京―名古屋間の距離で、その大きさがうかがえる。そしてそのとき、いつかこれを音楽にしようと決めたという。
彼は14歳で家出して放浪期に入るのだが、アリゾナに住んでいたその時期のことである。少年期の思い出がこの曲のモチベーションだったのだ。
多くの彼の楽曲と同様、非常にわかりやすい描写で構成されている。
30分程の曲で、「日の出」「赤い砂漠」「山道を行く」「日没」「豪雨」の5曲からなる。


「日の出」「日没」はそれぞれそのままだが、「赤い砂漠」「山道を行く」「豪雨」の3つの副題については少し注意したい。
もちろんこれらは邦訳なのだが、この3つは原題では“The Painted Desert”“On The Trail”“Cloudburst”である。
静かで神秘的な乾燥地に、強く照りつける日差し。照らされた砂の大地は様々な色に輝いて、大地のキャンバスを美しく彩る…「赤い砂漠(The Painted Desert)」はそんな曲だ。
「山道を行く」というとつい山登りを思ってしまうが、これは峡谷の道(Trail)を下っている様子である。
ラバに乗ってトコトコと下る音が聴こえるこの楽章は、小学校の音楽の教科書でも扱われる、最も有名な曲だ。旅行者とラバが峡谷の下、コロラド川の流れまでたどり着くと、オルゴールのような音楽がチェレスタで奏でられる。そんな音に耳を傾けているうちに、気がつくと旅行者とラバの姿は遠くに行ってしまうのだ。
「豪雨」というのは、スコールのような突然の嵐のようなにわか雨である。雷鳴と雨粒の描写は実に面白い。
さて、何よりもこの曲の白眉は「日の出」と「日没」の2つである。
冒頭がこの曲の最高の聴きどころと言っても過言ではないほど、「日の出」の美しさは傑出している。
この雄大な大地に徐々に光が差し始め、小鳥がさえずり、暗闇からグランド・キャニオンの全景が明らかになる様子を思い浮かべ、1曲目から早速鳥肌が立つ。新しい日の始まりだ。
「日没」は2本のホルンがオープンとミュートでこだまする演出が素晴らしい。優しい旋律が1日の終わりを告げ、徐々に夜へ近づく様子は涙が出そうになる。
グランド・キャニオンの最も美しい姿は、夜明けの太陽に照らされてその雄大な全景が現れる姿と、金色の夕焼けの中で日の終わりを迎え優しく包み込むような姿なのだろう。
そう確信できる、本当に美しい音楽だ。
そうは言っても、「日没」のあとの最終楽章は「豪雨」である。これはどういうことか?
この曲を聴いてみれば、その理由は一瞬でわかるはずだ。
豪雨はすぐに止み、雲間から明るい月が顔を覗かせる。最後にもう1つグランド・キャニオンの雄大な美しさを見せてくれる、大自然の偉大さ!

グローフェ:組曲「グランド・キャニオン」/ミシシッピ組曲/ナイアガラ大瀑布 グローフェ:組曲「グランド・キャニオン」/ミシシッピ組曲/ナイアガラ大瀑布
ストロンバーグ,グローフェ,ボーンマス交響楽団

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