サン=サーンス 組曲「動物の謝肉祭」
なぜこの曲を取り上げたかと言うと、最近シェルヘン指揮の音源を聴いて、本当に動物の声が入っていてビックリ仰天したからだ(理由になっていないか)。
大変有名な作品なので、こういうのを取り上げる際ちょっと捻ったことでも書かないとなあ、なんて思うのだが、大したことは書けないものだ。
まあそれだけこの曲が素晴らしいということでどうかご勘弁を。
全曲を通してはもちろんだし、組曲のうちそれぞれ単独で演奏されたり、編曲版で演奏されたりと、非常に愛されているが、それはサン=サーンスの死後の話であって、彼が生きているときは2度演奏されただけで、彼自身この曲の再演を許さなかった。
サン=サーンスの他の曲を聴けばわかるが、基本的に彼の作風は深みがないというか、「さらさら」としている(僕は当然褒めているつもりである)。そんな中でも、この作品は特にパロディ風で風刺的で、あんまり軽い音楽を作るやつだと思われたくなかったのかもしれない。
この曲がサン=サーンスの音楽がどんなものかを端的に示している、という指摘はよく言われるところだ。
それが本当だからだろうか、かえってこの曲が広く世に出るのを、サン=サーンスは少し気恥ずかしく思っていたのだろう。少なくとも、サン=サーンスの音楽はともかく、サン=サーンスという人物を知るにはもってこいだ。
序奏と獅子王の行進、雌鶏と雄鶏、驢馬、亀、象、カンガルー、水族館、耳の長い登場人物、森の奥のカッコウ、大きな鳥かご、ピアニスト、化石、白鳥、フィナーレ、という構成。
「亀」でゆっくりと演奏される『天国と地獄』、「象」ではベルリオーズとメンデルスゾーンの曲が用いられ、「化石」では自身の『死の舞踏』に加えフランス民謡とロッシーニの『セビリヤの理髪師』、フィナーレにまたしても『天国と地獄』、とパロディ天国である。
僕はピアノと打楽器を演奏するが、そういう者の立場から言うと、シロフォンが活躍する二大クラシックと言ったら、「剣の舞」と「化石」と相場が決まっているし、初めて「ピアニスト」を聴いたときはやはり衝撃だった。
「ピアニスト」はいかにもつまらなそうな練習曲を再現した、一流気取りの下手くそピアニストたちにたっぷり皮肉を込めた曲である。実はこの曲には、減衰楽器であるピアノに対する皮肉も込められているのではないかと思う。ピアノ弾きとして、スラーを上手く弾くのに苦労した者なら、この曲を聴いたときなんとなくその気持ちを分かってもらえると思うのだが。
「ピアニスト」と「耳の長い登場人物」は、当時の音楽評論家たちを風刺したもので、彼らがいかに形骸的で、ただわめいているだけかということを言いたかったようだ。
本来動物園にいないであろうこういう人物たちが、檻の中で見世物になっているということ自体が皮肉だし、音楽を聴けばなおさら彼の考えに触れることができる。
「化石」では『死の舞踏』の骸骨の踊りが登場する。自分の曲に目を向けてくれず、昔の音楽の化石たちや骸骨たちが踊り続けている当時の音楽界に一言物申すといったところ。
さんざん皮肉っておいて、最後の方に「白鳥」で純粋なフランス音楽の美しさを見せつけてくるところが、まあサン=サーンスらしいし、実際この美しさは彼の天分なのだろう。
彼の音楽は大体あんまり深みがないというのは、僕は当たっていると思う。彼はベートーヴェンを尊敬してはいたが、自分と共鳴するものは見出さなかった。
まさにそういう彼の真実の姿が見える音楽だし、何より楽しい音楽だ。
例えば人の悪口はこっそり言うから楽しいのであって、こういうのはモーツァルトのように、内輪でやってゲラゲラ笑うのがぴったりなのかもしれない。
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都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more