ハチャトゥリアン 組曲「ヴァレンシアの寡婦」:美味しいB級クラシック

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Valencian Widow / Danses Fantastiques

ハチャトゥリアン 組曲「ヴァレンシアの寡婦」


世の中では各地のB級グルメが名を轟かせているが、やはりクラシック音楽にもB級モノは存在する。
「B級」は、もちろん悪い意味でも用いられるが、最近はむしろポジティブな意味で用いることが多いのではないだろうか。
B級クラシック音楽というのは、作曲家に限って言えば、いわゆるバッハやベートーヴェン、モーツァルトといった超有名どころではない作曲家の音楽のことを指すかもしれないし、曲で言えば、有名作曲家のマイナーな秘曲といったところかもしれない。
ここで僕が、このハチャトゥリアンの組曲「ヴァレンシアの寡婦」に“B級”という形容をしているわけは、そういった使い方ではなく、それこそもっと「B級グルメ」のそれに近い。
つまり安くて、地元色があって、決して気取って食べるのではなく、欲にまかせてガツガツと食らう、そんな感じの音楽は、ハチャトゥリアンの音楽の最高の魅力だと言っても良いだろう。
たとえば、以前紹介したバレエ音楽「ガイーヌ」の中の「剣の舞」や「レズギンカ」などは、アンコールピースとしてもよく演奏されるのだが、海外の一流オケがやるものより、かえってそこらの地方のアマチュアが気合いでドッカンドッカン演奏する方が、泥臭くて素敵だったりするものだ。
それでも「ガイーヌ」は、音楽史に輝く名曲認定されているだけあってB級とは言い難いが、ハチャトゥリアンの少しマイナーな音楽となると、これは途端にB級感にあふれたものとなる。
「ヴァレンシアの寡婦」は劇作家ロペ・デ・ベガが17世紀初頭に書いた戯曲で、ハチャトゥリアンはそのソ連上演のために音楽を作った。
内容はヴァレンシアを舞台にしたドタバタのラブコメディーだそうで、コミカルなシーンあり、情熱的なシーンありと、音楽も彩り豊かである。


演奏会用組曲として編曲された際、劇音楽から6曲が抜粋された。演奏時間は25分ほど。録音は少ないが、チェクナヴォリアン指揮アルメニア・フィルのハチャトゥリアン作品の名演集にはもちろん入っている。絶版なのが惜しい。
第1曲のイントロダクションは、始まりの旋律からスペイン風だ。しかしどことなくソ連の香りがするのが、ここでいうB級感。
第2曲のセレナーデは緩急ある音楽。同じメロディーが後半に勢いを持つ。この勢いこそ、ハチャトゥリアン好きにはたまらない良さである。
もっとも美しいのは、第3曲のソング。クラリネットのソロによる美しい歌は愛の調べと取って間違いないだろう。感情の盛り上がりもあり、ややあか抜けないが、そこがまた絶妙だ。
次に少し外してくるのが第4曲のコミック・ダンス。滑稽な踊りというだけあって、音楽がコロコロ変わり、様々な舞曲が入れ替わり立ち代わり現れる。
第5曲のインテルメッツォは、まるで白鳥の湖の冒頭を思わせる始まりで、濃厚な音楽が展開される。この曲の主題は、ハチャトゥリアンの名曲「スパルタクス」においても転用されている。美しいが、これはスペインというよりはソ連の音楽だ。ソビエトの巨匠らしさがよく楽しめるだろう。
最後は第6曲ダンス、この躍動感はいかにもハチャトゥリアン。2拍子系に挟まる3拍子も、彼らしさのひとつ。何より、最後の最後はさんざん引っ張って、最後に「ジャジャン!」と2発。ここでわざわざ2発入れるあたりがいかにもと言ったところ。
こういう音楽はいい。深遠なる音楽の世界という言葉は似つかわしくないだろう。しかしもっともっと、人間の魂に気軽に近づいてくるような気がする。多くの人間が共通に持つ、精神のどこかに「根付いている」何かと共鳴するようなもの、それがあるからこそ、B級グルメにせよB級クラシックにせよ、ここまで人の心を捉えるのだろう。

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