フランセ ピアノ三重奏曲 ニ長調
ドビュッシーが生誕150週年でおめでたいムードのフランス・クラシック音楽界だが、それと同時に、今回取り上げるフランスの作曲家ジャン・フランセは、今年生誕100周年と、実はドビュッシーよりおめでたい人物なのだ。
フランセは1912年生まれ1997年没のフランス新古典主義の作曲家。「軽妙洒脱」という言葉がよく似合う。僕がこの言葉を使うときは、大体がプーランクかイベールなのだが、彼らよりもこの表現がふさわしいのではないかと思うほど、実に小気味良い音楽を作る人だ。フランセは、彼自身の作風を「喜びを与えること」を目指したものと語っていたらしい。
24時間耐久レースで有名なル・マンに生まれ、パリ音楽院に入学しピアノ科を主席で卒業。彼の作品には、ピアノが非常にいい響きをしているものが多い。
僕が初めてフランセの作品に触れたのは、珍しい生演奏で、弦楽三重奏曲だった。これはなかなかオシャレで面白いなあと思っていたが、いつも彼のことを忘れていて、なかなかフランセを取り上げて書かなかった。
どうも日本では影の薄い、あまり取り上げられることのない作曲家だが、フランスでは彼の音楽は非常に愛されている。いつもAmazonのリンクを貼っているが、ピアノ三重奏曲が録音されているものは見当たらなかった。上のCDは弦楽三重奏曲が入っているCDである。
多作家で、掘り出せば掘り出すほど面白い作品がまだまだたくさん埋もれているので、これからどんどんポピュラーになってもらいたいものだ。
僕は特に彼の室内楽が好きだが、協奏曲も面白いものが多い。機会があればまた紹介したいと思う。
ピアノ三重奏ということで、ピアノとヴァイオリンとチェロという編成で、17分程度。4楽章構成で、1楽章はメトロノーム5/8 = 52、2楽章スケルツァンド、3楽章アンダンテ、4楽章アレグリッシモ。フランセの作品には、終楽章が快速で聴いていて楽しいというパターンが多い。もうこれが最大の魅力と言い切ってもいいかもしれない。
3楽章が緩徐楽章になっているのだが、他は基本的に軽い趣き。聴くものにこれほどの軽さを感じさせる音楽作りはさすがだが、演奏はかなりの難易度だ。なかなか素人がちょっと演奏しようとしてできるものではない。
つまり、軽い印象な割には、案外複雑なことをやっているのだ。そして、現代音楽によくあるように、その複雑さが堅物な印象を作るのではなく、あくまで「軽い印象」を超えないで複雑さを擁している。この感覚はイベールやプーランクともまた違うところだ。
1楽章は5拍子の楽しい楽章。2楽章はノンストップさが楽しい。ひたすらに音の流れに乗るのだ。3楽章はさすがに楽しいとは言えないが、絶妙なタイミングで体をほぐす緩徐楽章。これがあるから他楽章の軽妙さ全てが映えるのだし、この楽章の毛色の違う軽妙な美しさもまた一層際立つのだ。
4楽章では最高の楽しさ。弦楽とピアノが交互に掛け合う部分が僕の特にお気に入りの部分だ。弦楽が得意げにしているところに、ピアノが横から「ちょっと通りますよー」と言わんばかりに、さらさらさらっと流れていく。この感覚は独特だ。
わかりにくようで、わかりやすいような音楽……これは新古典の良さを(わかりやすく)伝えるいい表現かもしれない。もちろん、そういったことはあらゆる音楽を解釈するときに当てはまると言えなくもない。ただ、あくまで「聴いて楽しむ」身としては、古典の明解さと現代の難解さの、微妙な中間点を突いた音楽として捉えられるのだ。魅力も2倍で美味しい音楽。
Francaix: String Trio – Wind Quintets Nos. 1 & 2 – Cor Anglais Quartet Marwood Ensemble Collins Classics |
都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more