伊藤康英 津軽三味線協奏曲:コンチェルトとしての価値

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ぐるりよざ~伊藤康英吹奏楽作品集


伊藤康英 津軽三味線協奏曲


この作品よりも先に、伊藤康英作品の中で僕がとっても大好きな曲である、吹奏楽のための交響詩「ぐるりよざ」を紹介しようと思っていたのだが(よって上のCDリンクはぐるりよざ)、縁あってこの協奏曲の初演を聴くことが出来たので、ここで取り上げたいと思う。伊藤康英は吹奏楽の世界では有名な作曲家で、ほかには歌曲や子どもものための音楽教育にも力を入れている。
邦人作曲家の吹奏楽作品は数あれど、それに比例して取るに足らない作品が多いのも事実。僕も吟味してブログで取り上げるつもりだ。伊藤康英のシリアスな吹奏楽作品については、どれも底知れぬ魅力があり、紹介する価値のあるものだと言えるだろう。
例えば、先に挙げた交響詩「ぐるりよざ」の、どこかで見たキャッチフレーズが、確か「日本と西洋の音楽が、かつて出会ったことのないファンタジー」というものだったと思うが、伊藤康英作品の魅力のひとつは、“西洋楽器で日本の音楽を奏でる意義をしかと感じることのできる音楽である”という点だ。
今回取り上げた世にも珍しい「津軽三味線協奏曲」は、吹奏楽と津軽三味線のための協奏曲で、この曲もまた、“津軽三味線”という日本の音楽と、“吹奏楽”という元々は西洋の音楽が、二つ重なりあうことの意義を感じることができる作品になっている。
和楽器である津軽三味線の持つ、強いリズムや速弾きのロック風な激しさは、要素としては西洋の音楽と相性の良いものだ。強烈なオスティナートに込められた和の魂は、伊福部昭の音楽などに代表されるように、オーケストラでも十分に表現される。
吹奏楽の世界でも、そういった“和”の要素を音に込めた作品は多い。それらは熱狂的で興奮を煽り、管楽器が大音量で鳴らす吹奏楽という形態にはぴったりだろう。
しかし、この協奏曲はそんな和の魅力だけにとどまらない、革新的な魅力を携えている。それは、「音合せ」、つまりソロ楽器のチューニングまでも、ひとつの音楽として、津軽三味線の音楽にある独特の面白さとして協奏曲に取り入れているところである。
こうした例は、いわゆる西洋の伝統的な協奏曲にはまずない。この曲は4つの部分が連続して演奏されるのだが、その中で何度か現れる「音合せ」は、チューニングの機能としてはもちろん、それはカデンツァでもあり、また音楽が別の雰囲気を持つ部分に移動するために必要不可欠な調弦でもあるのだ。


14分程の長さで4部構成。鋭い木管楽器群のスケールで幕開け。開始早々に、木片の音やこだまする拍子木、散在する太鼓群など、打楽器が活躍する。そこで音を探るように津軽三味線が登場。ドローンのような伴奏のCの低音上で、徐々に整ってくる弦の調子に、三味線奏者の唸り声も粋である。『津軽じょんがら節』風の音楽だ。
シンプルで生々しい音の破片たちが、少しずつ三味線の周りに集まって音楽を成していく。細かい三味線の指の動きや、三味線と管楽器のグリッサンドの重なりも聴きどころだ。三味線とサクソフォンの響きだけになるところなども、不思議と幽玄の趣き。風変わりな響きを楽しみたい。
鈴の音が聞こえると、かきむしるような三味線のソロが。その後「三下がり」の調弦になると、1泊目が長い3拍子の音楽が始まる。『津軽三下がり』だ。作曲者曰わく、「日本の音楽には、こんな複雑なリズムがあるのです。注目してください」とのこと。興味を持った方は、元ネタの三下がりの三味線の楽譜(もちろん西洋の五線譜とはちょっと違いますが)を見てみたり、日本を代表する三味線奏者、高橋竹山先生の『津軽三下がり』を聴いてみていただきたい。
笛と竹の音、三味線という100%和風の雰囲気を十分堪能したら、ティンパニがまるで矢代秋雄の交響曲のスケルツォのような変拍子を奏で、協奏曲もクライマックスに差し掛かる。この変拍子がまた和の趣きなのだ。矢代の交響曲のリズムは神楽が参考にされているそうだが、このリズムも、日本の祭り囃子か何かを彷彿とさせる。それに加えて、和風ロックとでも言おうか、4分の4拍子でわかりやすいコード進行のノリの良い音楽が差し込まれる。ここではブラスもファンク風でご機嫌だ。
シビアな変拍子と三味線ロックとが丁度半々くらいのバランスで現れ、複雑ながらも勢いのある音楽。速弾きの三味線ソロを挟んで、盛大に終わる。
もしこの曲の後半が単純な三味線ロックだったなら、ノリは良くてウケも良いかもしれないが、音楽の「意義」を考えたときに実につまらないもので終わってしまっていただろう。この曲を古典から脈々と続く“協奏曲”の系譜に位置付けることを約束するのは、僕はこの変拍子とロックの混在だと思う。
この作品は、西洋的なクラシック音楽の“協奏曲”文化に、和のエキスたっぷりの津軽三味線が巧みに合わさった作品だ。単なる和と洋のコラボレーションではなく、“コンチェルト”として成功した例であり、価値ある音楽だと思う。なお、初演時の感想はこちらから

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