マニャール ピアノと木管楽器のための五重奏曲:古典を意識しつつオリジナリティを出す

Spread the love

Magnard/Caplet;Quintets


マニャール ピアノと木管楽器のための五重奏曲 作品8


アルベリク・マニャール(1865-1914)はフランスの作曲家で、「フランス山人の歌による交響曲」で有名なヴァンサン・ダンディの弟子である。フランク門下でもあるが、ダンディの方が好みだったそうだ。
ヴァンサン・ダンディもまたベートーヴェンやワーグナーなどのドイツ音楽に深い敬愛を抱いていたが、その敬愛はマニャールにも受け継がれているのだろうか、フランスらしさの影にどこかドイツ後期ロマン派をも思わせる作風である。
レ・ヴァン・フランセの公演でこの曲が取り上げられており、いやはや、こんな名曲がまだ世の中にはあったか!と恐れ入ったのだ。この曲の普及のためにも、ここで熱く語っておきたい。
「ピアノと木管楽器のための五重奏曲 作品8」は1894年の作品で、マニャールが最初に手掛けた室内楽曲である。「ピアノと木管楽器」というジャンルはそもそも室内楽の中ではかなりマイナーな方で、18世紀ならまだしも、19世紀にはあまり多く見られない編成だ。しかもあまりお硬い曲ではなく、元々は前座や幕間の演奏に用いられたスタイルである。そんなマイナーなジャンルである上に、このジャンルを代表する作品が、モーツァルトのK.452とベートーヴェンのOp.16という音楽史上のビッグネーム2人の曲しかないという、後世の人間にとってはなかなかプレッシャーの大きいジャンルなのだ。
だから、若かりし頃のマニャールの最初の室内楽へのアプローチがこれというのも不思議なものだ。もっとポピュラーなものはいくらでもあったはずだ。ヴァイオリン・ソナタや弦楽四重奏やピアノ三重奏ではなく、ピアノとフルート、オーボエ、クラリネット、バソンという組み合わせを選んだマニャールの精神からは、モーツァルトやベートーヴェンの影をも恐れぬ若き気鋭を感じる。
もっとも、モーツァルトとベートーヴェンの五重奏曲はフルートではなくホルンが用いられている。そこであえてフルートを入れたマニャールの先駆性は評価されるべきだし、ベートーヴェンやモーツァルトとの直接対決を避けた狡猾さも微笑ましい。
マニャールと同じ編成(ホルンでなくてフルート)のものは、マニャールの後にはルーセルのディヴェルティスマンやカプレの五重奏曲などがある。ルーセルのものは7分ほどの小品で、カプレのは長いがかなり若い頃の作品だ。マニャールのものは35分もある。しかし、僕も初めて聴いて一気に引き込まれたくらい、本当に長さを感じない。


4楽章構成。全体的に、どの地方とは断言できないものの、どことなく民族的な雰囲気(つまり所謂おフランス風ではない) が漂っているのはマニャールの特徴的な作風だ。1楽章Sombre(暗く)では、ニ短調のフリギア旋法がその暗さの元になっている。暗いというよりもシリアスな、という方が良さそうだ。ここではクラリネットが主役を演じる。マニャールは一応それぞれの楽器をそれぞれ別の楽章で主役として扱っているように思われる。
2楽章Tendre(柔和に)は緩徐楽章。この作品の、1楽章ー緩徐楽章ースケルツォ楽章ー終楽章という配置、つまり2楽章に緩徐楽章を置くスタイルからも、古典の大曲を意識させる。フルートが始めてソロ楽器として旋律を奏でる。哀愁と温もりが滲むピアノの和音も心を打つ。
3楽章Leger(軽快に)で、民謡調が最もはっきり現れる。ここではオーボエに注目したい。中間部のオリエンタルなオーボエの旋律は絶品だ。マニャールは、この曲の作曲に取りかかる2年前にパレスチナを訪れており、そこで聴いた民族音楽の影響もあるに違いない。
4楽章Joyeux(喜ばしげに)が最も複雑で手の込んだ作りになっている。自由なロンド風なソナタ形式だが、マーチのようなリズムも感じられるし、ドイツ古典のような重さもある。この重みはショーソンの室内楽の心地よい厚みと似ている。様々な要素が流れるように一つに統合していく様は圧巻だ。お待ちかねのバソン大活躍シーンも聴き逃せないところ。
こういう古典を意識しつつ、フランスのお国柄やマニャール独自の作風を色濃く表出するというのは実に良い。あくまで僕の好みだが、きちんと古典を意識しているというだけで作品には箔がつくし、事実、音楽の中身も深みが出るし、このジャンルでモーツァルトやベートーヴェンと肩を並べることに成功している。
あるCDの解説書を読んでいたら、この曲はわりと頻繁に演奏されると書いてあった。管楽器奏者はレパートリーに飢えてるからと書いてあるが、本当かよ、知らなかったぞ……とツッコミを入れつつ、頻繁に演奏されるのはフランスの話なのかなあとも思い、日本でもどんどん演奏されてもらいたいと願っている。

Magnard/Caplet;Quintets Magnard/Caplet;Quintets
Magnard,Caplet,Fromanger,Martin,Ozi

Koch Schwann (Germ.)
売り上げランキング : 208426

Amazonで詳しく見る by AZlink


ここまで読んでくださった方、この文章はお役に立ちましたか?もしよろしければ、焼き芋のショパン、じゃなくて干し芋のリストを見ていただけますか?ブログ著者を応援してくださる方、まるでルドルフ大公のようなパトロンになってくださる方、なにとぞお恵みを……。匿名で送ることもできます。応援してくださった皆様、本当にありがとうございます。励みになります。

Author: funapee(Twitter)
都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more

にほんブログ村 クラシックブログへ にほんブログ村 クラシックブログ クラシック音楽鑑賞へ 
↑もっとちゃんとしたクラシック音楽鑑賞記事を読みたい方は上のリンクへどうぞ。たくさんありますよ。

Spread the love

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

*

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください