ブレーデン 見えざる夏の星の歌:小さくたって自分だけの光

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ブレーデン 見えざる夏の星の歌


2019年の個人的なベスト盤に挙げたいのが、Carmen Braden(カーメン・ブレーデン、定まった日本語表記はまだない)のアルバム、Songs of the Invisible Summer Stars(見えざる夏の星の歌)だ。
カーメン・ブレーデンは1985年カナダ北極圏生まれの音楽家で、自他ともに認める「ジャンル・ジャンピング・ミュージシャン」であり、フォーク、ジャズ、クラシックなどのエッセンスで構成された自由な音楽を展開する、今カナダ(の一部界隈)で話題沸騰中なのだ。公式ホームページもあるので気になる方はどうぞ→ carmenbraden.com


2017年にアルバムをリリースしたときは、HMVのサイトでもロックにカテゴライズされ、
日本では話題にもならなかったが、多彩な彼女は今年クラシック寄りでリリース。するとどうだろう。僕も頑張って探してみたけど、インターネット上に日本語の記事はまるで見当たらない。またしても話題にならないのであった……で終わらせるのはもったいない。ここで語ろうじゃないか。
当盤はブレーデンが作曲した室内楽曲が収録されており、伝統的なクラシック音楽の様式に則った曲をカナダの奏者たちが録音したもの。弦楽四重奏やピアノ三重奏、打楽器や管楽器が入る編成もある。
僕が一番推したい、タイトルで挙げた「見えざる夏の星の歌」は室内アンサンブルで、弦楽四重奏にフルート、オーボエ、ホルンがそれぞれ1人ずつ加わったもの。同名の歌(ブレーデン自身による歌唱)とヴィブラフォン版もあり、そちらが室内アンサンブル版の元ネタだ。
自身のライブなどに加え「作曲家ブレーデン」としての活動はカナダ全土で繰り広げられており、最近ではトロントにて、2019年11月17日、トロント響コンサートマスターのジョナサン・クロウと楽団員たちによる室内オーケストラが「見えざる夏の星の歌」を演奏している。コープランドの「アパラチアの春」とヴィヴァルディの四季と共に演奏された。初演は2017年で、今年もこうして演奏されるということは、ブレーデン作品はカナダの音楽家たちにとってレパートリーになりつつあるのだろう。下の写真はカナダのクラシック音楽メディア「ルートヴィヒ・ヴァン」が取り上げた同演奏会の記事である。画像クリックで元記事ページへ。


長い前置きを終えて、そろそろ曲の紹介に入ろう。太陽が沈まない北極圏の夏の夜、白夜をテーマにしたクラシック音楽は、チャイコフスキーの「四季」やアルヴェーンの「夏至の徹夜祭」、他にも北欧の作曲家の曲があるが、ブレーデンは「この時期に見えなくなった星たちはどこへ行ったのか?」という発想から作曲。
先も少し触れたが、5分ほどの短い歌詞の歌が元となり(本人公式サイトに歌詞あり)、イメージを膨らませて室内アンサンブルに改変したものである。5つの短い楽章からなり、全曲で20分弱の長さ。それぞれ歌詞からタイトルが付けられている。
第1曲“Where do the stars play?”(星はどこで遊ぶの?)、歌詞の続きを日本語でざっと書くと、「夏に消えている星はどこで遊んでいるの?落ちた影のはるか彼方で遊ぶのよ」って感じかな。浮遊感のある音程差が、北欧クラシックのような自然の中の澄んだ空気を醸し出す。主題となる旋律を把握するのは容易いと思われる。序奏的な部分が終わると、ヴァイオリンが前半を歌い、木管が後半を歌った後、パラフレーズされていく。時折啼くホルンがとても良い味を出している。
第2曲“Comet River”(彗星の川)、歌詞は「重力がなければ、下流も上流もないわ」的な。ライヒの音楽やラヴェルのオーケストレーションをも彷彿とさせるリズミカルな冒頭、リズムは推進力を産み、いくぶん五音音階的なアルペジオも面白い。彗星はどこから来てどこへ行くのかしら。
第3曲“A clandestine meeting with an Aurora”(オーロラとのないしょの出会い)、全体の白眉とも言えるこの曲、歌詞では「オーロラが私の周りに、私の星に光を贈るとき、大空の新緑の葉で輝く露のように、私達は緑色の炎を燃やすの」のような、うーん、これは訳すの難しいのでサイト見て英語で楽しんでください。木管の神秘的な旋律に、煌めくスル・ポンティチェロ。僕はオーロラを生で見た経験はないが、どんなものでしょう。わからずとも言える、この曲を聴いている今、今のこの瞬間こそ、ある種の奇跡なのだ。
第4曲“Sway me around, Orion!”(私を揺さぶって、オリオン!)、これも訳すのはきついね、歌詞もその後「スウェイ、オー、スウェイ、オリオン!」みたいな感じ。まあ揺さぶってというよりも、踊らせて、に近いと取ろるべきだろう。ジャズを思わせるチェロのピッツィカートがベースラインを奏でると、弦のピッツィカートと管のメロディ。オリオンもずいぶん洒落たダンスを踊ること。
第5曲“When the moon hangs lonely in the blue sky”(青空に月が寂しくのぼるとき)、続きは「月は叫ぶ、遠くの星たちよ、帰っておいで、そして雪を運んでくるの」と。ホルンが主旋律を奏で、途中からソロになる。この高音ソロが絶妙。これはやはり歌詞ありで聴いてから楽器で再び聴いてほしい。ヴァイオリンが第1曲の主題を再奏し、クラシックらしい構成感をもたらす。


たとえ単に天体の話をしていただけとしても、「星」に詩的なロマンを見出したりファンタジーを描くのは自然なことではないか。ましてや音楽なら。飛躍しすぎとバカにされるかもしれないが、僕はこの曲紹介記事に、某アイドルアニメの名言、「昼間だって、まぶしい夏だって、星は消えないんだよ」を添えておきたい。輝いていてもそれが自分で分からなくなることはきっと誰にでもある。見えざる夏の星は輝きが見えないだけ、オーロラの優しい抱擁は自分だけの星に生命の輝きを与える。見えないモノを見ようとして、イマジナリーに満ちた望遠鏡を覗き込むのだ。光はどこにあるの? 彗星と遊び、オリオンと踊り、月の呼ぶ声が聞こえるところに、小さくたって自分だけの光、オリジナルスターはいつも輝いている。そんな星たちの歌に耳を傾けよう。

Songs of Invisible Summer Star
Braden / Parker / Lemieux (アーティスト)

KIRA☆Power/オリジナルスター☆彡
STAR☆ANIS


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