バルツノフ ドムラ協奏曲第4番:ロシアの秘宝

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バルツノフ ドムラ協奏曲第4番


「ドムラ協奏曲」という文字列を見て、どう思いますか? まずは「ドラム」じゃなくて「ドムラ」と読めた方は偉い。ちゃんと読めて楽器も思い浮かんだ人には拍手を、ブダーシュキンという作曲家を思い浮かべられた人にはブラボーを、そしてこのバルツノフの名前や協奏曲を知っている人にはスタンディングオベーションを贈りましょう。


ドムラという楽器がある。ロシアの民族楽器で、バラライカに似た撥弦楽器だ。バラライカオーケストラでも使われ、主旋律を担当することも多い。
そもそも、バラライカオーケストラとは何か。日本でもお馴染みの「マンドリンオーケストラ」があるが、それに近い雰囲気である。「ロシア民族楽器オーケストラ」とも呼ばれ、パイオニアであるワシーリー・アンドレーエフ(1861-1918)がバラライカやドムラなどの楽器を改良してその礎を築き、有名団体だとサンクトペテルブルクではアンドレーエフ記念オーケストラが、またモスクワではオシポフ記念オーケストラが活動している。CDもあるので、ぜひ聴いてみてほしい。


さて、そのドムラという弦楽器のための協奏曲だが、有名なのは上でも書いたニコライ・ブダーシュキン(1910-1988)の協奏曲である。ロシア民謡の「一週間」のメロディが用いられ、メロディも音の響きも、いかにもロシア一色である。それを知っている方も相当マニアだと思うが、ここからはさらにマニアックな話題になる。誰も読んでくれないかもしれない。なぜそんな曲について書くのか。そう、書きたいから書くのだ。そして、この曲がとても良い音楽だから書くのだ。


長い前置きを終えて、とうとう今回の作曲家、バルツノフについて。パヴェル・バルツノフ(Павел Барчунов, 1922-1996)はロシアのウラル音楽院(エカテリンブルクにあるムソルグスキー音楽院)で学び、子供向けオペラ「長靴をはいた猫」の音楽をはじめ、オペレッタやカンタータや歌曲など、歌ものを幅広く作曲。
またオシポフ記念オーケストラのための作品も多く書いている。このドムラ協奏曲が第4番ということは、少なくとも4曲以上はあるのだろうが、確認できる録音はこれだけである。
この曲が収録されているのはMelodiya/Angelレーベル(ソ連のメロディア音盤をLAのキャピトル・レコードが出したもの)のLPで、上の写真のもの以外には見当たらない。一応まだ米Amazonでは買えるようだ。
ドムラ独奏はウラディーミル・ヤコブレフ、ヴィクトル・ドブロフスキー指揮オシポフ記念オーケストラ。もちろんバラライカオーケストラの伴奏である。作曲年は不明だが、このLP自体は1972年プレスだそう。


伝統的な3楽章構成で、急緩急、16分ほどの長さ。コンサートに組み込むにもちょうど良く、ロシアの民族楽器オーケストラのコンサートではこういう知られざる曲が多く演奏されていた(いる)んだろうなあと思うと、なんだがワクワクする。
それこそ、どこかのマンドリンオケがアレンジして取り上げてくれないかな、なんて思う。スコアの情報は全く不明なので難しいと思うが。


1楽章を聴いてすぐに思うのは「なんて可愛らしい!」という感想。ロシア風でも、まるでモーツァルトのようなピュアさも感じる。それでいて、ときには妙に哀愁漂うメロディも顔を見せる。カリンニコフの交響曲を礼賛するロシア泣きメロファンも納得させられるだろう。民謡調といわゆる古典派・ロマン派風音楽の巧みな混合である。カデンツァもしっかり魅せる。カデンツァ終わりに入ってくる木管楽器とグロッケンもまた可愛らしい。
2楽章はラフマニノフ顔負けの仄暗いロシア風音楽、トレモロで歌うドムラの響きに耳を傾ける。こういう感覚が通じるかどうかわからないが、例えば日本でも、管弦楽ではなく吹奏楽のオリジナル曲にしかない(というかオケの現代作品ではあまりやりたがらない)、垢抜けないメロディってあると思うんだけど、そんな良さを感じる。もちろんマンドリンオーケストラでもそうだけどね。そういうのも好きなんだよなあ。
3楽章、この舞曲にウキウキしない人はいるだろうか。もちろんロシア風だが、正統派クラシックより民謡チックなぶん、やはり先日聴いたばかりの趙季平の曲、それも取り上げた新作ではなく、もっとプリミティブな雰囲気を持つ初期作品「シルクロード幻想組曲」の最後の舞曲を思い出した。中間部ではトレモロの歌も聞かせてくれるが、しかしこの楽章はリズムが心地良い。高速パッセージも、ちょっとした引っかかり(指回し)がまた粋だ。ギターでもそうだが、撥弦楽器の良さである。そしてコーダは短いながらも堂々と。まるでチャイコフスキー。いやあ、素晴らしい。


マンドリン曲とはまたちょっと違うのは、ロシア風の曲調のせいか、あるいは楽器の特性だろうか。やや柔らかい印象を受ける。伴奏のバラライカ・オーケストラも、トレモロでスラーの旋律を奏でると、まるで人の声のハミング、合唱のようにも聞こえる。そんな響きも面白い。これは珍盤なので玄人向けかもしれないが、ロシア民族楽器オケは気軽に聴けるので、ぜひ色々聴いてみていただきたい。僕もまだまだ開拓中である。下のリンクはブダーシュキンのドムラ協奏曲。


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都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more

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