オーベール ヴァイオリン・ソナタ ト長調 op.25-4
ここ何年かでバロック・オペラに惹かれるようになり、色々見たり聴いたりしているが、クラシック音楽の中でも未開拓な作品が多い時代で、それらを開拓し蘇らせる試みはどれも興味深い。そういうものも好きだし、イタリアオペラも好きなので、ますますワーグナー離れが進んでいる。まあそれはともかく、「バロック」と一括りにするのは強引かもしれないが、有名所以外の17世紀~18世紀の音楽を自分なりに開拓するのは、最近の楽しみのひとつでもある。
ということで、今回紹介したいのは、ジャック・オーベール(1689-1753)というフランスはパリ生まれの作曲家・ヴァイオリニストだ。彼の生没年を見ると、J.S.バッハ(1685-1750)と非常に近いことがわかる。まさにバッハが活躍した時代の音楽家だ。
もっとも、バッハとほぼ同時代に活躍したフランスの作曲家と言えばラモー(1683-1764)もいる。ラモーはクラヴサン組曲などの鍵盤楽器や、舞台作品の音楽、あるいは音楽理論の分野で活躍したと(大まかに)言うことができる。一方のオーベールも幅広く作品を残しているが、鍵盤ではなくヴァイオリン作品がメインである。
コンデ公にヴァイオリン奏者として仕え、宮廷の弦楽合奏団であるLes Vingt-quatre Violons du Roi(フランス王の24のヴィオロン)のメンバーでもあり、パリのオペラ座では1728年から1752年まで第1ヴァイオリン奏者を務めた。コンセール・スピリチュエルが始まってからは自作の協奏曲を演奏するなど、当時のパリでは大活躍だったそうだ。
高い評価を得ていたオーベールだったが、死後は忘れられ、ラモーやクープランのような名声は得られず、またヴァイオリン音楽にいたっても、ジャン=マリー・ルクレール(1697-1764)の方が知名度は高い。
J・オーベールはまだ開拓されたばかりの作曲家であり、録音も多くはないが、僕は初めて聴いたCDで一発で惚れてしまった。エヴァ=クリスティーナ・シェーンヴァイス(vn)とキルステン・エッケ(hp)による、ヴァイオリンとハープのための作品集(上の画像)に収録されていた、ト長調のソナタop.25の第4番である。「ソナタ集第5冊」という6つのソナタが収められたものの第4番だそうで、もともとヴァイオリンと通奏低音のための曲を、このCDではハープが伴奏している。なるほど、ハープの雰囲気もよく合う音楽だ。
1楽章Largo、優美な旋律に心打たれる。格式の高さがありながら、どこか親しげな表情もあり、手が届きそうで届かない妖精のような、幻想的な雰囲気さえ感じる。
2楽章Corrente、活き活きした3拍子のこの舞曲も、どこか可愛げなところがあるし、3楽章Gavottaはおどけた様子がありつつ上品さも湛えており、どの楽章を取っても洗練された音楽だなあと感じる。
4楽章Tambourin I – Tambourin II、この楽章も独特の軽さが魅力的だ。さらりと弾いても素敵だろうし、技巧的に速さを競っても楽しいだろう。
このop.25のソナタ本に収められている6曲のうち、録音が確認できるのは第4番のみであり、しかもハープ伴奏のみである。ぜひチェンバロや、あるいは低弦も入れたバージョンでも聴いてみたいものだ。
こういう曲を聴くと、ドイツやイタリアとはまた違うよなあと感じる。何なのだろう。最近は「フランスのエスプリ」とか「パリのエスプリ」とか論評で書くと意味わからんと貶される向きもあるようだが、偉い評論家先生たちにはぜひフランス音楽におけるL’espritの復権に努めていただきたいものだ。
都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more