ロドリーゴ ソナタ・ピンパンテ
ピンパンテ、なんて聞くとそういうイタリアンレストランでもあるのかなーと思ってしまうが(実際にある)、今日は料理の話ではない。「アランフェス協奏曲」で有名なスペインの作曲家、ホアキン・ロドリーゴの作品。このブログでは以前、「アンダルシア協奏曲」というギター4本のための協奏曲を紹介した。Wikipediaなどを見てもわかるが、ロドリーゴは非常に多作で、幅広い分野の作品を残している。
ということで、GoTo室内楽タグの生みの親としては、あまり話題になることのないロドリーゴの室内楽作品を取り上げたい。
ソナタ・ピンパンテ、なんとも可愛らしい響きの名前を持ったソナタだ。ヴァイオリンとピアノのためのソナタで、録音は決して多くはないものの、配信含め複数の演奏が容易に視聴可能である。20分もない曲なので、気軽に聴いていただきたい。
スペインの20世紀のクラシック音楽界隈は、やはり新ウィーン楽派のような先進的な音楽グループの影響が他の欧米諸国に比べて小さかったというか、伝統的というか、無調ではなく調性音楽寄り、あるいはロマン派や印象派の影響の方が大きかったと、ざっくりまとめるとそんな感じだと思う。
ロドリーゴはそうした保守的な音楽の枠組みの中で試行錯誤し、オリジナリティを探求した。「スペインらしさ」と言っても良いのかもしれない。このヴァイオリンとピアノのためのソナタでは、叙情的、情熱的な旋律と和声、そして印象派のような描写的なリズムと和声、そしてヴィルトゥオーゾ的な高度な技術の顕示をもってして、「アランフェス協奏曲」だけれは知り得ないロドリーゴの顔を見ることができる。
ピンパンテ(pimpante)は「おしゃれな」とか「快活な」とか、そういった意味だそうだ。1966年に作曲。ロドリーゴの義理の息子でヴァイオリニストのアグスティン・レオン・アラに献呈されており、若々しいというか、ハツラツとした音楽である。
第1楽章の冒頭からインパクトが大きい。水と光が反射するようなピアノの5連符はラヴェルを彷彿とさせる。ヴァイオリンで奏でられる「ピンパンテの主題」も元気がいい。聴いていて元気になる。直後にまるでサウンド・オブ・ミュージックの前奏曲のようなアンダンテ・モデラートのメロディ。コントラストのある主題が交互に現れる。
第2楽章、美しいアダージョ。中間部はロドリーゴいわく「ウィッティーなセビジャーナス」、アレグロ・ヴィヴァーチェの激しい音楽が繰り広げられる。セビジャーナスはセビリアの周辺地域の伝統的な踊りで、様々なものがあるようだが、ウィッティーだと語る理由はどんなものだろう。この楽章もコントラストが良い。
第3楽章はロンド形式の舞曲で、ロドリーゴは1楽章にアレグロを置き緩徐楽章を挟んでロンドという、非常に古典的な形式を採用している。アンダルシアの踊り「サパテアード」、ここでもロドリーゴが「悪魔的なサパテアード」と呼んでいるが、エネルギッシュで楽しい無窮動の音楽であると同時に、どこか不安な不協和音が付きまとう、面白い曲だ。
個人的には、ソナタ・ピンパンテを収録した音盤がどれも興味深いものばかりなので、少し紹介しておきたい。エバ・レオン(vn)とオルガ・ヴィノクール(p)のNAXOS盤はロドリーゴのヴァイオリンとピアノのための作品集、ロドリーゴの室内楽を知るのに最適。
CPO盤もロドリーゴの作品集、こちらは上にも挙げたロドリーゴの義理の息子でこの作品を献呈されたアウグスティン・レオン・アラ(vn)の演奏。ピアノのウジューヌ・ド・カンクも室内楽の大御所である。
Centaur盤はトゥリーナ、ロドリーゴ、グラナドスの作品。スペインの20世紀のヴァイオリン作品を俯瞰できる。グラナドスのヴァイオリン・ソナタは傑作。以前このブログでも紹介したので、ぜひご一読ください。
ガイ・ファイガー(vn)とアンナ・ハニーナ(p)による“Unearthing”(発掘)と題したNew Focus Recordingsの音盤は、プーランク、バツェヴィチ、アーノルド、ロドリーゴという多国籍チョイス。これも興味深い。
都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more