ハイドン 交響曲第60番「うかつ者」:うっかり交響曲

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ハイドン 交響曲第60番 ハ長調 「うかつ者」 Hob.I:60


ハイドンは3月31日が誕生日だそうだ。4月に入ってしまったが、おめでとうの気持ちでブログ更新。今年は2022年、あと10年後の2032年にはハイドン生誕300周年だ。ジョヴァンニ・アントニーニとイル・ジャルディーノ・アルモニコが2032年までにハイドンの交響曲全曲録音に挑むプロジェクト、“Haydn 2032”というものもあり、CDリリースや演奏会の他、国際的な写真家集団であるMagnum Photosの協力を得て、Bookletや演奏会場に新作写真を置いたりと、色々やっている。これもまた楽しみだ。↓のツイートも参照してください。

https://twitter.com/bokunoongaku/statuses/1494290418711687178


さて、祝う気持ちがあるのなら、もう少し他の副題が付いたのでも良かっただろというツッコミはなしにして、好きな交響曲の一つである第60番「うかつ者」を紹介しよう。うかつ者、迂闊者、他にも「愚か者」、「うつけ者」、「迂闊な男」、「うっかり者」、「ぼんやり者」、「うすのろ」などと訳されることもある。とWikipediaに書いてあった。原題は“Il distratto”である。
せっかくなら「うっかり交響曲」として欲しかった。そうしたらきっと「びっくり交響曲」こと第94番「驚愕」と並んで取り上げられることもあっただろうに。びっくりとうっかりに、新作で「しゃっくり交響曲」とか「どっきり交響曲」とか「さっぱり交響曲」とか作って、並べて演奏会してもらいたい。


冗談はこの辺にして、この交響曲はハイドンにしては、というか当時であれば誰であれ珍しく、6楽章で構成されており、元は劇音楽を交響曲として再編したものだ。“Il distratto”というのは戯曲のタイトルである。フランスの劇作家ジャン=フランソワ・ルニャール(1655-1709)が1697年に作った戯曲で、パリで初演されたが、広く知られるようになったのはルニャールの死後で、ドイツ語に翻訳されたのは1761年。タイトルは“Der Zerstreute”、ウィーンの人気俳優カール・ヴァールの一座が上演するためにハイドンが曲を付けた。序曲と、各々の幕間のための曲を4曲、そしてフィナーレの合計6曲。
ルニャールという劇作家は日本ではさほど有名ではないが、17世紀のフランス劇作家の中ではモリエールに次ぐ有名作家で、かつてヴォルテールは「ルニャールを好まざるぬ者、モリエールを褒めるに値せず」と評したほどである。ルニャール自身もハチャメチャな人生を送ったそうだが、この戯曲「うかつ者」もまたハチャメチャな恋愛物語で、主人公がうっかりさんだそう。
なお当時上演したカール・ヴァールの一座はニコラウス1世のお気に入りで、エステルハーザ宮(ここでオペラや劇をよく上演していた)に一座のための部屋を用意していた。同じく部屋を借りていたハイドン一家は、一座の人数が増えてきたので当主の命で部屋をいくつか返して、ハイドンの家族はアイゼンシュタットに戻されたとのこと。劇団の人気ぶりもうかがえる。
ハイドン自身がこのルニャールの戯曲とカール・ヴァール座の上演についてどう思っていたかはわからないが、自分の付けた曲については後に「古い無意味な曲」と言っている。ただ、ハイドンの生前にも交響曲形式として何度も演奏されたということであり、人気はあった曲なのだろう。今もこの変わった副題のおかげもあってか、超有名曲とまでは言えないものの、取り上げられることのある作品である。


第1楽章はアダージョの序奏から3拍子でアレグロの主部へ。言われてみればいかにも序曲らしい開始だ。高らかに鳴るホルンも美しい。
第2楽章はアンダンテ、しかし緩徐楽章というよりはスケルツォ的な性質を持つ。弦楽器と管楽器の対応が面白い。一応は登場人物の一人を描写しているという説もあるようだ。
第3楽章はメヌエット。とても上品な雰囲気がある。うっかり恋愛モノとは思えない。トリオも特徴的だ。
第4楽章はプレスト、弦楽器の高速ユニゾンでいかにも終楽章的な印象だが、ここで終わらないのがこの曲の肝だ。実際はどうなんだろう、当時この楽章の終わりで拍手が起こったのだろうか。短いプレストから次の楽章へ。
第5楽章はアダージョ、アリア風の旋律に、突然のファンファーレなど、自由である。この曲の良さは型にはまらないところだ。それは次の楽章でも言える。
第6楽章はフィナーレ・プレスティッシモ、速く、短い楽章で、主題を演奏するとすぐに弦楽器のチューニングのような音になる。ポルタメントで音を直すのも面白い。ここは見せ場(?)だろう。「驚愕」や「告別」で魅せるパフォーマンス的なものを期待してしまう。実演ではなく録音だと中々難しいが、サイモン・ラトルはバーミンガム響でもロンドン響でも、直前で敢えて不協和音を弾くなど工夫している(下にリンクあります)。


劇音楽が元とは言え、そこまで描写的なものではないし、むしろ「交響曲」のパロディのような音楽だろう。「交響曲とはこういうものだ」というルールを「うっかり」破ってしまった迂闊者。いや、うっかり交響曲になってしまった、という方が適切だろうか。自由な魅力で満ちている、楽しい「交響曲」だ。


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Author: funapee(Twitter)
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