フィンジ 5つのバガテル:ちょっとした大傑作

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フィンジ 5つのバガテル 作品23

イギリスの作曲家、ジェラルド・フィンジ(1901-1956)を取り上げるのは2012年8月以来。そのときは「エクローグ」について書いた。今回はエクローグに負けないくらい人気の作品である、クラリネットとピアノのための「5つのバガテル」を取り上げよう。フィンジの数少ない室内楽作品。 ローレンス・アッシュモアの編曲による弦楽合奏伴奏や、クリスティアン・アレクサンダーの編曲による弦楽四重奏伴奏もある。


バガテル(Bagatelle)は、ちょっとしたもの、とか、つまらないもの、のような意味のフランス語。ベートーヴェンの作品にありますね。ベートーヴェンもそうだけど、世の中、能力のある人が言う「ちょっとしたものです」みたいな言葉は、若干の謙遜みたいなもので、あまり本気にしない方がいいと思うのだけど、どうでしょう。意外とそういう片手間というか、シェフが残り食材を短時間でササッと調理して、まかないとして出してくれる料理みたいなものって、独特の味わいがあって美味しいというか。それは音楽も同じだと思う。
実際にフィンジもこの曲については「大した価値はない」と言ったそうだが、「それでも、私のまともな作品よりも良い評価を得ている」とも言っている。ちょっと可愛そうだが、確かにフィンジのまともな作品(それが何を指しているかは不明だけど)より人気がある。僕もいずれは、トーマス・ハーディの詩による歌曲やその他の歌曲、合唱曲、舞台音楽についても書きたいと思う。いずれ、ね。本人は謙遜していても、クラリネットらしい広い音域と音色の可能性を最大限に生かした傑作なのは間違いない。そしてフィンジがクラリネットという楽器を愛していたことも疑いようがないだろう。


少し解説しよう。「5つのバガテル」は1939-43年頃に書かれた作品で、Prelude、Romance、Carol、Forlana、Fughettaの5曲からなる。全部演奏しても15分ほどの長さ、演奏会で取り上げるのにも程良い。最初に出来たのが第2曲のキャロルと第3曲のロマンスで、次いで1941年にフィンジが陸軍運輸省に勤務していたときに第4曲フォルラーナが完成。これらの3曲は、フィンジが若い頃に創作した主題を転用したとされている。第1曲プレリュードは1942年の年始の休暇で作曲し、以上の4曲(第5曲以外)が1943年1月15日にロンドンのナショナル・ギャラリーで初演。クラリネットはポーリーン・ジュラー、ピアノはフィンジの親友ハワード・ファーガソン。第5曲フゲッタは1943年の夏に、やや時間をかけて作曲。聴いてもらえばわかる通り、他の4曲よりも力作になっている。1945年にBoosey & Hawkesから出版される際、出版社は第1~4曲と、フゲッタと、それぞれ別に出版しようとしたそうだが、フィンジは5曲をまとめるのにこだわった。売上は絶好調だったそうだ。


まず第1曲プレリュードが「ドレミファソラシド」で始まるのがたまらなく良い。いきものがかりの「ありがとう」じゃないが、この音列には魔法のような力がある。少しバロック風ないし新古典風な趣きも感じるし、民謡風もちゃんと味わえる。中間部の美しさにエルガーの影を見るのは考え過ぎかしら。こういうのが好きな人はぜひ、フィンジの歌曲作品も聴いてみてほしい。
第2曲ロマンス、これは弦楽伴奏で聴くとドビュッシーの「小舟にて」を彷彿とさせる。ピアノ伴奏であればシューマンのトロイメライなんかも浮かんでくる。それでもイギリスの音楽だなあと思わせる良さがある。この主題、楽譜見ないと3/4+4/4とはわからないだろう。
第3曲キャロル、これも優しい歌だ。フィンジがハーバート・ハウエルズの子どもたちのために作った曲が元だそう。シンプルに歌を楽しみたいなと思うことが多いので、こちらはピアノ伴奏版の方が好きだ。
第4曲フォルラーナはイタリアを起源とする古い舞曲で、ラヴェルの「クープランの墓」に入っている。穏やかに揺れるリズムも良いが、これもメロディが美しい。そういう意味ではこれもピアノ伴奏が良いかしら。このメランコリー、絶妙だ。中間部で非常に熱い、ロマンチックな展開があるところも好き。低音から高音と移るフィニッシュも。
第5曲フゲッタ、低音から高音まで軽快に駆け上っていく。ピアノがメロディを追いかけるとクラリネットが半音階のフレーズ、そこがまたかわいい、フィンジのこだわり。全体を通してリズムとアーティキュレーション、そして跳躍、速いスケールと聞かせどころ満載。曲の終わりがまたユーモアがあってたまらない。pppで終わる。


描写的な音楽ではないが、フィンジの愛した英国の長閑な風景を思い浮かべて聴くのも楽しい。「英国クラリネット作品集」的なアルバムには大体入っているので、ぜひ聴いてみてほしい。この手のものも意外と数があり、その多くにフィンジの「5つのバガテル」が収録されている。このジャンルの常連だ。他に常連の作品というと、スタンフォード、ヴォーン=ウィリアムズ、ブリス、アイアランド、アーノルド、ジョーゼフ・ホロヴィッツ、ハールストンなどが挙げられるだろう。この辺の曲と、あとはもっとマイナーだったり、奏者のこだわりが見えるような曲が入ることもある。ともあれ、フィンジのこの曲の演奏を聴けば、奏者のこだわりもわかるというものだ。

Introit: Music of Gerald Finzi by AURORA ORCHESTRA / NICHOLAS COLLON
AURORA ORCHESTRA / NICHOLAS COLLON (アーティスト)

小道と踏み段を通って フィンジ:作品集
フィンジ弦楽四重奏団 (アーティスト)


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