メルカダンテ ホルン協奏曲:ホルンかかえて歌うだけで

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メルカダンテ ホルン協奏曲 ニ短調

ホルン協奏曲というジャンルはとても好きでよく聴いている方だと思うのだが、ブログでは2008年にリヒャルト・シュトラウスの協奏曲第2番、2009年にグリエールの協奏曲、2011年にシューマンの4本のホルンのためのコンツェルトシュテュックについて書いて以来、このブログでは触れていかなった。由々しき事態だ。
数あるホルン協奏曲の中で、僕が今回取り上げたいのはサヴェリオ・メルカダンテ(1795-1870)の協奏曲である。メルカダンテという名を知っている人は、おそらくフルート好きの人なのではないだろうか。ロッシーニの3つ年下、ドニゼッティの2つ年上、ベッリーニの6つ年上という、ヴェルディより少し先輩たちにあたる19世紀イタリアのオペラ作曲家らと同世代である。メルカダンテも多数のオペラを書いたが、今はあまり顧みられることがなく、もっぱらフルートのための協奏曲や室内楽作品で名前を見かけるくらいである。オペラに関してもロッシーニと並びその発展に大いに寄与したそうだが、ひとまずフルート作品は録音も多数あるので気軽に聴いてみていただきたい。流れるような美しい旋律が豊富で、常にエレガントな雰囲気。どれも上品な音楽で、これはフルート奏者たちに長く愛されるのも納得である。上品なだけがフルートの魅力ではないが、やっぱりフルートにはそういう魅力を求める人は多いだろう。


ということで、フルート協奏曲はまだまだ忘れ去られることもないだろうし、クラリネット協奏曲もそこそこ人気のようだし、僕はあまり話題を見かけないホルン協奏曲を取り上げよう。失礼な言い方だが、本当にこの曲は忘れ去られていきそうなので……というのも、このメルカダンテ唯一のホルン協奏曲、一見すると「大したことない曲」に見られがちなのだ。メルカダンテのフルート協奏曲もクラリネット協奏曲も、どの番号もほとんどが3楽章構成のしっかりした協奏曲なのに対し、ホルン協奏曲は2楽章構成、しかも1楽章はほぼ序奏のようなシチリアーナで、演奏時間も2つの楽章合わせて7~8分と、とても短い。しかもオーケストラとソロの掛け合いのような場面もなく、オーケストラは終始ホルンの伴奏に徹している。
メルカダンテがこの曲を作曲したのは1820年頃と言われ、フルート協奏曲集よりも少し後だと言われているが、詳細は不明。どういう理由があったか知らないが、オーケストラがあまり上手くなかったとか、まあ色々事情があったのでしょう、ただホルンが歌っているだけの曲である。しかし、だからと言って馬鹿にしないでいただきたい。ただホルンが歌っている、その歌で、どうにも胸が苦しくなる。さながらオペラの一場面。そんな美しいメロディなのだ。この素晴らしいメロディを、いつまでも残したいなと思う。


そこで僕はコーヒー党広報本部長兼、メルカダンテのホルン協奏曲保存会名誉会長として、こうして策を講じているわけだ。オケがほぼ活躍しない、しかも短い協奏曲は、普通のコンサートにはあまりお呼びでない。ホルンのソロパートは、特に2楽章の方は結構難しくてアマチュアがやるのは大変だし、プロに頼んでも数分で終わるようならソリストに払うギャラがもったいない。そこで、モーツァルトのホルン協奏曲第1番と合わせて、2曲の協奏曲でコンサートやったらどうだろう。モーツァルトの1番なんかは有名な曲だけど短いから、ちょうど良いかもしれない。どこかのオケの人、いかがですか?
あるいは吹奏楽編曲をプッシュするのも手かしら。オランダの吹奏楽界の重鎮ウィリー・ハウトヴァスト(1932-2020)が編曲している。7分ほどで終わる協奏曲なら、長い曲に不慣れな吹奏楽団でも取り組みやすいかもしれない。しかも伴奏はそんなに高難易度ではないし。アムステルダム・ウィンド・オーケストラの録音もあるので聴いてみてほしい。例えばホルンが得意な顧問の先生とか、選曲にいかがでしょう。ほら、どうしようもないオリジナル曲とか、コンクールで勝つための戦闘曲ばっかりやらせないで、たまにはさ、クラシック、やりませんか? そういえば僕の高校のときの吹奏楽部の顧問の先生はアマオケでホルン吹いてる先生だったな。先生、どうですか? 10年くらい前に長岡でばったり会って以来ですね、お元気にしてますか?

New Compositions for Concert Band 3
Amsterdam Wind Orchestra


プロでもアマでも、ホルンの腕前に自信がある方はぜひ、ピアノ伴奏編曲を吹いてみてほしい。何しろメロディは一級品、ロッシーニと肩を並べたオペラ作曲家メルカダンテの本領発揮である。ニューヨーク・フィルで長年ホルンを吹いていたウィリアム・カイパーが編曲している。カイパーはワシントン・ナショナル響や海軍バンドを経てNYPへ。ソロの録音もあり、エリジウム弦楽四重奏団とのモーツァルトのホルン五重奏曲や、ケネス・クリーンが指揮する英国セレナード集に収録のブリテンのセレナードなどがある。残念ながらメルカダンテの録音は見当たらなかった。デュオ編曲ならオケもバンドも不要だから気軽に取り組めるし、伴奏ピアノも他の協奏曲ほど大変ではなさそうだし、ソロコンサートでも使えそうだ。
さあ、聴き専のファンの皆さんは、あのヘルマン・バウマンが録音していますから、ぜひ聴いてくださいね。記事冒頭に画像を貼ったものです。他の音盤も紹介しよう。下に貼っているけども、本場イタリアの奏者、ルチアーノ・ジュリアーニの録音もある。これも絶品だ。もしイタリアのホルン作品に興味を持ったら、ズビグニェフ・ツークのアルバム“Il Corno Italiano”もぜひ。メルカダンテの他、ドニゼッティやベッリーニの珍しい作品も聴ける。下のリンク、2番めのもの。ジャケットがやたらと素敵ね。最後のものはリンクが無くて申し訳ないが、フランスの巨匠ダニエル・ブルグの録音。快速演奏で魅せてくれるので、あっという間に終わってしまうが、これはこれで良い。こういう何とも言えない味のある曲が日の目を見るように、このブログは少しでも力になったら良いなあと思っている。

Mercadante, Cherubini, Rossini
Luciano Giuliani, Vincenzo Mariozzi, Vittorio Antonellini & I Solisti Aquilani

Il Corno Italiano
Zbigniew Zuk

Weber – Schumann – F. Strauss – Mercadante – Daniel Bourgue


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Author: funapee(Twitter)
都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more

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