フライシュリヒ コーヒー・カンタータ「喜びの船が急いで東方からやってくる」:コーヒー党広報本部長、仕事してます!

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フライシュリヒ コーヒー・カンタータ「喜びの船が急いで東方からやってくる」E33


コーヒー・カンタータと聞いてバッハ以外の作曲家を思い浮かべる人はまずいないだろう。先日、Twitterで絶対コーヒーが美味しくなる方法を上げたけれど、僕は生粋のコーヒー党員である。お酒エッセイシリーズも本当はアルコール島戦記にするかアルコール党奇談にするか迷ったくらいだ。小学生の高学年くらいからブラックコーヒーを飲み始め、自分で淹れるようになってから学生時代には一日に10杯とか馬鹿みたいな飲み方をしていたが、僕もおじさんになってきて「適量」をようやく意識できるようになった。我ながら、偉いなあ。適量ってね、大事なんだよ、コーヒーも、音楽も。それはともかく、年を重ねても音楽の趣味は捻くれている僕にとって「バッハじゃない人の作ったコーヒー・カンタータ」なんて、これほど紹介したくなる曲もない。バッハの曲は沢山の人が色々書いてくれているので、今日はバッハの2歳年下、ヨハン・バルタザール・クリスティアン・フライシュリヒ(1687-1764)の曲を取り上げよう。


フライシュリヒは、ドイツ中部にあるテューリンゲン州の街インメルボルンで生まれた。ザクセン=マイニンゲン公国の宮廷楽団で音楽を学び、20代になるとイエナでさらに研鑽を積む。シュヴァルツブルク=ゾンダースハウゼン侯の宮廷オルガン奏者として働き、後に宮廷楽長を務めた。40代で兄弟の跡を継ぎポーランドのグダニスク(ドイツ語読みではダンツィヒ)の教会の楽長に就任すると、生涯を当地で過ごした。多くのカンタータを作曲し、また受難曲や教会で演奏するためのソナタなどが残っている。
グダニスクはハンザ同盟の都市として古くから栄えた街だ。16-17世紀はポーランド王国の庇護を得て、貿易と文化のまさに黄金時代であった。ハンザ同盟はルター派が強くドイツの影響も大きかったので、教会ではドイツ流の音楽が求められ、ほとんどの教会の楽長たちはドイツ人だったそうだ。フライシュリヒもそうしたドイツ人の一人である。


このMDGレーベルのCDで、フライシュリヒのカンタータを3曲聴くことができる。コーヒー・カンタータはその3曲の中で最も短い、15分ほどの長さ。バス独唱のためのカンタータで、明るく陽気、豊かな表現と漲る活力、エネルギー溢れる良い音楽だと思う。歌詞の内容はコーヒーだけではなく、紅茶や噛みタバコについても歌っているもので、美味しいし健康に良いから皆で摂りましょうという内容。良いじゃないか。古のコーヒー党員たちの気持ちを想像しよう。東方から嗜好品を山ほど積んだ船がやってくる喜び。現代で言えばなんだろうな、カルディに買い物行ったときのワクワク感かな、そんなもんじゃないかな……知らんけど。しかしまあ、さすがグダニスク、コーヒーが来る船を待つなんて、港町のコーヒーカンタータらしい始まりだ。あれだよ、コーヒー飲み過ぎの娘を頑固親父が叱るライプツィヒのコーヒー・カンタータとは一味違うね……と思って聴いていたのだが、この曲はフライシュリヒがグダニスクに来る前、シュヴァルツブルク=ゾンダースハウゼン侯に仕えていた頃に作曲されたらしい。「喜びの船」とか言うから、てっきりバルト海の港町特製ブレンドなのかと思ったのに、どうやらテューリンゲンの森ブレンドのようだ。失礼失礼。とはいえフライシュリヒはこのスコアをグダニスクにも持参したそうで、おそらくそちらでも奏でられたことでしょう。CDには最後の楽章の異版が収録されているので、もしかすると再演時の変更という可能性もある。詳しい情報は無いので不明だけど。
爽やかな序奏に始まり、すぐにバスのテクニカルな歌唱に魅了される。聴き進めるほどに、フライシュリヒの鮮やかな手腕、その楽才に驚くだろう。勢いがあり、古臭い感じはしない。確実に新時代を切り開くような音楽だ。レチタティーヴォでは、力強く、熱い熱い思いを込めて”Kaffee und Tee, die sind vor alles gut”と宣うバスの声に、僕も深く頷いてしまう。コーヒーと紅茶は至上なり。つい昨日もタリーズコーヒーの「&TEA」という紅茶メニューに力が入っているお店に行ったのだけど、紅茶もいいなと思いつつ結局水出しアイスコーヒーを注文。移動して、別のタリーズに行ったんだけど、そこは普通のお店でワンモアコーヒー頼もうと店員さんにレシート渡したら「あ、紅茶のお店に行かれたんですね」と言われたわ。そう、行ったよ、飲んだのはコーヒーだけどね。「紅茶じゃなくてコーヒー買っちゃいました」と返事したよ。僕はコーヒー党だからな。別に良いだろ! タリーズで紅茶飲んだことないわ。今度は紅茶飲もう、と言いつつ多分コーヒー飲むんだろうな(笑)
話が逸れてしまったが、コーヒー党の広報部長としては良い仕事したかしら。フライシュリヒのカンタータのスコアが学者らによって世に出されたのは1997年だそうだ。これからもう少し色々出てくるかな? コーヒー・カンタータは編成も小さく室内楽的だが(バス独唱にフルート、オーボエ、ヴァイオリン2本と通奏低音)、他の2曲は大編成のカンタータ。ぜひ聴いてほしい。MDG盤はゴルトベルク・バロック・アンサンブルがグダニスクの教会で録音している。素晴らしい曲に、素晴らしい演奏。コーヒーを飲みながら聴いてほしい。紅茶でも良いよ。美味しいコーヒー飲みながらカンタータ聴いたら、それが君のコーヒー・カンタータになるのだ。コーヒー・シンフォニーでもコーヒー・コンチェルトでも良いね。紅茶ソナタも良いでしょう。音楽の楽しみは自由だ。

コーヒー党奇談 (講談社文庫 あ 4-32)
阿刀田 高 (著)


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