スティル 交響曲第3番「日曜日の交響曲」:君は、君こそは、日曜日の交響曲

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スティル 交響曲第3番「日曜日の交響曲」


この土日は秋の行楽ということで家族で伊豆へ。主たる目的は我が家の最重要動物でいらっしゃるホワイトタイガーに会うことである。伊豆アニマルキングダムでは9月12日にホワイトタイガーの赤ちゃんが生まれ、通称ベビトラちゃん2匹の小さくて可愛い姿を拝むことができるのは今このときだけなのだ。毎晩アニキン(アニマルキングダムの愛称)のYouTubeでトラ舎の夜間配信をしているのを眺めるだけでもう、これがめちゃくちゃ可愛くてですね、日々の心の癒やしなのであります。この日曜はついに本物のベビトラちゃんに会えて非常に満足。良い日曜日を過ごしたことだし、日曜日の交響曲について書くことにした。我ながら良いチョイスだ。

ウィリアム・グラント・スティル(1895-1978)。画像掲載元:Wikipedia

ウィリアム・グラント・スティル(1895-1978)はアメリカの作曲家。アフリカ系アメリカ人としてはクラシック音楽界のパイオニア。霊歌やブルースやジャズなどを題材として作品に取り入れたことで知られる。最も有名な曲は交響曲第1番「アフロ=アメリカン」であり、ネーメ・ヤルヴィ指揮デトロイト響のChandos盤をはじめ録音も多くある。レオポルド・ストコフスキーもスティル作品の擁護者であり、交響曲の録音も残っている。ストコフスキーはスティルを「アメリカで最も偉大な作曲家の一人」と高く評価していた。

Symphony: Afro-American / Suite From the River
Duke Ellington (作曲), William Grant Still (作曲), Neeme Järvi (指揮), Detroit Symphony Orchestra


スティルの父は町のバンドリーダーだったが、スティルが3歳のときに亡くなっている。母の勧めで医学の勉強を始めるも、音楽に惹かれて路線変更、オーバリン大学で音楽を学ぶ。第一次世界大戦では海軍に従軍し一時音楽の勉強も中断するが、戦後はニューヨークへ移住しアレンジャーとして活躍。スティルの師は前衛で知られるエドガー・ヴァレーズと、保守派でアメリカ国民楽派の祖とも言えるジョージ・ホワイトフィールド・チャドウィックである。両者から影響を受けながら、アレンジャーもしつつブロードウェイのオーケストラでオーボエ奏者と務めつつ忙しく働き、1920年代のハーレム・ルネサンス運動が起こるとスティルの興味関心は自身で作曲することに完全に移行。1930年に作曲したアフロ=アメリカン交響曲で作曲家として成功を収める。
それからはアフリカ系アメリカ人としては初となる自作の交響曲演奏に、初となる指揮デビュー、初となるオペラ制作、初となるオペラのテレビ放送など、数々の偉業を成し遂げていく。多くの作品を残し、交響曲は5曲作曲した。全て副題が付いていて、第1番「アフロ・アメリカン」、第2番「新種族の歌」、第3番「日曜日の交響曲」、第4番「先住民の交響曲」、第5番「西半球」。


今回取り上げる第3番は、5つの交響曲の中で唯一スティルの存命中に演奏されなかった作品である。もともと3つめの交響曲の作曲を途中で頓挫したスティルは、後にそれを書き直して第5番「西半球」に作り変えており、空白となった第3番としてさらに後で作ったものが「日曜日の交響曲」である。実質これが一番最後に書かれた交響曲ということになる。1958年の作とされており、ベルギーの作曲家Christian Dupriezに献呈している。このDupriezという人はヨーロッパのラジオでスティル作品を多く取り上げ、彼の国際的な知名度を高めるのに寄与した人物だそうだ。
演奏時間は20分弱、4つの楽章からなり、それぞれ第1楽章「目覚め」、第2楽章「祈り」、第3楽章「寛ぎ」、第4楽章「一日の終わりと新たな始まり」という題が付けられている。ここまで読んできた方は薄々お気づきだろうが、敬虔なクリスチャンの日曜日の情景であって、僕みたいに行楽に浮かれた日曜日とは全く違うのでご了承ください。
1楽章の冒頭は金管の力強いファンファーレ。実に良い目覚ましだ。だらだら起床するのではない、身も心もしゃきっとして、秩序の始まりである。オーケストラのトゥッティで短いテーマが奏でられると、打楽器がそれに応じる。五音音階のテーマもパワーが漲っている。木管やミュートトランペットも打楽器に負けじと愉快なリズムと鮮やかな音色で彩りを加える。活力のある日曜の朝だ。お寝坊するのも良いけど、こういうのも良い。
2楽章の祈りもまたスティルの本領発揮と言える。イングリッシュ・ホルンの調べは、おそらく黒人霊歌の類か何かだろう。スティルの自作なのか、何か元があるのか不明だが、黒人霊歌ではリーダーとグループの「コール・アンド・レスポンス」の形式が多用され、1楽章でもそうだったがこの祈りの2楽章でもそれを聴くことができる。緩徐楽章ではあるものの、この楽章でもリズムといい管楽器の音色といい、実に巧みなオーケストレーション。スティルの達人技だ。
3楽章はスケルツォ楽章、鳥たちが何か啄むごとく、木管楽器が素早いフレーズを歌い、タンバリンやトライアングルも合わさる。金管、弦楽器、さらに大きな打楽器の音も出てきて盛り上がりを見せる中間部も素敵だ。短い楽章だが、いかにもクラシックらしい、少し古風な趣きも感じられる音楽。
4楽章で日曜の締めくくり、まるで行進曲のような序奏である。それが終わるとリリカルに歌われるメロディ、心身を整えてくれる。オーボエもヴァイオリンも美しい。再び序奏のフレーズが登場すると、新しい一日、新しい一週間の始まりに向かって毅然として進んでいく。実に真面目である。この真面目さが良いのだ。力強いフィニッシュ。


本当は以前から、スティル作品を紹介するときは吹奏楽のための組曲「デルタから」について書こうと思っていたのだが、つい日曜日に引っ張られてこっちにしてしまった。その「デルタから」も素晴らしい音楽で、まあ吹コンで「勝てる」ような、しょうもない内容だけどドッカンドッカンやってコンクール勝てるから芸術的(?)に価値がある(と音楽評論家様が言っていた)ような曲ではありませんので今の日本の吹奏楽界隈では人気にならないと思いますが、演奏会にはちょうどいい、本当に音楽的に価値のある古典だと思いますよ。アフロ=アメリカン交響曲も吹奏楽編曲あるようだけど、この「日曜日交響曲」はないのかしら、管楽器と打楽器が大活躍して吹奏楽編曲にしても楽しい音楽だと思う。オケでも吹奏楽でも、どこかやってくれないかなあ。

スティル:交響曲 第2番&第3番・森の調べ
スティル (作曲), ジョン・ジーター (指揮), フォート・スミス交響楽団 (オーケストラ)


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