モルテルマンス 交響詩「春の神話」:そんなまだ秘密の予感

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モルテルマンス 交響詩「春の神話」


雪が降ったかと思えば、今週は一気に暖かくなるらしい。春の音楽を聴きたくなってくるね。今回はベルギーの作曲家、ローデヴェイク・モルテルマンス(1868-1952)の交響詩「春の神話」を取り上げよう。1868年にアントワープで生まれたモルテルマンス。年齢の近い作曲家を挙げると、エリック・サティが1866年生まれ、エンリケ・グラナドスが1867年生まれ、ルーセルやプフィッツナーが1869年生まれ、ゴドフスキー、レハール、フロラン=シュミットが1870年生まれ。

ローデヴェイク・モルテルマンス(1868-1952)。画像掲載元:Wikipedia

声楽が圧倒的に主流だった19世紀後半のフランドル地方の楽壇において、管弦楽領域の開拓者となったモルテルマンスは「フランドルのブラームス」と評されているそうだ。フランドル地方の声楽優位に関しては、もっぱら当地の巨匠ペーテル・ブノワ(1834-1901)の影響が大きい。フランス語ではなくフラマン語(オランダ語)で歌うオペラやオラトリオ、カンタータ、合唱作品を多く作曲し、母国語で母国のことを歌う芸術を推進したブノワの影響下において、ヨーロッパのメインストリームに乗りたい作曲家たちは肩身が狭い思いをしただろう、というような話が記事最後に貼ったHyperion盤の解説に書かれている。ブノワの「フラマン音楽の構築」という大きな夢の一方で、交響曲や管弦楽曲の発展は著しく妨げられた、と。
モルテルマンスもアントワープ王立音楽院でブノワに学んでいる。ブノワお気に入りの弟子であり、モルテルマンスもまた師を敬愛していた。1893年にはオランダ語のカンタータ「マクベス夫人」でベルギー版ローマ賞を受賞。ブノワの正統な後継者と見なされていながら、一方でモルテルマンスは「声楽のために存在する管弦楽」以上のものを目指していた。特にキャリアの初期には管弦楽作品を多く書き、その中にはもちろん標題音楽もあるが、状況や場面描写のための音楽ではなく、感情や気分の表現が音楽にできることだ、という見解を持っていた。記事最後のHyperion盤に収録の管弦楽作品では、フランドル地方に根付く題材ではなく、ギリシャ神話や北欧神話を題材にしている。広くヨーロッパに目を向けた作曲家だったのだ。
もちろん師ブノワへ反旗を翻しているわけではない。ヨーロッパ楽壇が前衛の道を進むと、モルテルマンスももちろんそれを認識しながら、自身は生涯ロマン派の作風を捨てなかった。またモルテルマンスは、管弦楽だけでなく合唱曲も多く残している。これもブノワの影響といえるかもしれない。


今回取り上げる交響詩「春の神話」は1895年作曲、ワーグナーやシベリウス、あるいはドビュッシーやフランク、R・シュトラウスやマーラーの管弦楽さえ彷彿とさせる音楽である。北欧神話、古エッダの春の神話を題材にした作品。大地の女神ゲルズは冬の眠りから目覚め、愛が体中に満ち、新しい生を歌う。結婚相手である豊穣の神フレイが角笛を吹きながら近づき、愛と喜びのうちに抱き合う。声が響き渡り、春が生まれる……というものだそうだ。10分ほどの交響詩で、春の喜びが溢れるオーケストラ音楽。この季節にぜひおすすめしたい。
いかにも春を思わせるイントロ。心が鷲掴みされる。明るい光が差し込む様子が目に浮かぶ。あれ、描写のための音楽ではないとか何とか言ってしまったが、フランス印象派顔負けだ。雰囲気あるオープニング。しかしまあ、あまり言葉で説明するのは不要にも思う。とにかく、シベリウスやワーグナーのオーケストラ音楽が好きな人にはぜひ聴いてほしい。ヴォーン=ウィリアムズや、チャイコフスキー、ボロディンを挙げて評している記述も見かけた。それもわからなくはない。弦楽も、金管も木管も、大胆な筆致で明るく美しい絵を描く。空と海を青く染めたという女神ゲルズ、また世界一美しいとも言われる女神ゲルズが、伸びやかに健やかに奏でる歌。そこに荒々しく、雄々しく、エロティックですらある豊穣の神フレイの力強いリズムと激しいダイナミクスが絡んでいく。その調和。実に魅力的なオーケストラ音楽である。
モルテルマンスはフットワークも軽く、諸外国の音楽界の動向にも興味を持ち、特派員としてバイロイト音楽祭を取材したり、コンクール設立に尽力したり、1903年にはアントワープで「新演奏協会」を立ち上げ、マーラー、S・ワーグナー、ハンス・リヒター、R・シュトラウス、ラフマニノフ、サラサーテ、ティボー、カザルス、クライスラーら著名な指揮者や演奏家を招いた。1914年まではモルテルマンス自身もそこで指揮者を務めたそうだ。師とはまた違った角度から、母国の音楽の発展を促した人物である。

Homeric Symphony / Morgenstemming / Mythe Lente
Mortelmans


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