プーランク 平和への祈り:喜びの、本当の宝物

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プーランク 平和への祈り FP95


そろそろプーランクについて書きたいなあと思っていたところだ。前に書いたのは2022年。フルート・ソナタについて書いたのだった。もう3年くらい経つのか。その前はチェロ・ソナタと、器楽ソナタばかり取り上げてしまった。いずれ宗教曲を取り上げたいなあと思いつつも、長い曲だとブログ書くのも面倒だなとも思っていた。今回は短い声楽(独唱)のための宗教曲。忙しいので短い曲で勘弁してください。長い曲は時間のあるときに取り上げたいと思います。
僕は軽妙洒脱なプーランク作品を先に知ったので、真面目な雰囲気が漂うプーランクの宗教作品を初めて聴いたときは驚いた。プーランク自身もそういう曲の存在をもっと知ってもらいたいとは思っていたようで、別に自分を偉大な作曲家だと知らしめたいとまでは言わないが、軽い曲ばかりの二流だと思われるのは癪だとの旨を手紙にしたためている。特に宗教曲は合唱曲が中心で、イギリスやアメリカに比べて合唱がそこまで盛んではなかったフランス国内の事情もある。


1936年に「黒い聖母像への連禱」を作曲して以降、信仰心も高まり宗教曲を多く書くようになったプーランク。今回の声楽曲「平和の祈り」は1938年の作で、その流れを汲むものと言える。1938年9月29日のフィガロ紙に、百年戦争時代のフランス王族シャルル・ドルレアン(シャルル1世・ド・ヴァロワ, 1394-1465)の詩が掲載されているのを見たプーランクは、その詩に触発されて作曲に取りかかる。聖母マリアに平和を祈る内容の詩である。世はまさに戦争前夜、第二次世界大戦の開戦直前で、ちょうどミュンヘン会談の頃に書かれた曲だ。1938年9月29,30日、英仏がナチス・ドイツに譲歩して、チェコスロバキアのズデーテン地方併合などヒトラーの要求が認められる。ナチス・ドイツはこれに勢いを付け、チェコスロバキア解体、英仏に不信感を抱いたソ連と独ソ不可侵条約を結び、1939年9月にポーランド侵攻、第二次世界大戦が始まる。
そんな暗黒の時代に新聞に掲載され、プーランクの作曲意欲に火を点けた詩がこちら。

Priez pour paix Doulce Vierge Marie
Reyne des cieulx et du monde maîtresse
Faictes prier par vostre courtoisie
Saints et Saintes et prenez vostre adresse
Vers vostre Fils Requerant sa haultesse
Qu’il Lui plaise son peuple regarder
Que de son sang a voulu racheter
En déboutant guerre qui tout desvoye
De prières ne vous vueillez lasser
Priez pour paix, priez pour paix
Le vray trésor de joye.

平和のためにお祈りください 優しき聖母マリア様
天の女王 世界の女王
お祈りさせてください あなたのお慈悲で
聖者たちと聖女たちに あなたのお頼みで
気高さを求めるあなたの御子に
主が人々をみなしてくださりますように
血で罪をあがなおうとしたのだと
全てを破壊する戦争をなくすために
祈ることに疲れませんよう
平和への祈り、平和への祈り、
喜びの本当の宝物

この曲についてプーランク自身は「田舎の教会で唱えられる祈りのようなもの」と語っている。静かで素朴な祈りの音楽で、詩の書かれた中世の時代の雰囲気を醸し出そうとしているのが感じられる。子守歌のような静けさから、痛ましさすら感じるような願いの声になり、「全てを破壊する戦争をなくすため」の部分ではあくまで全体の雰囲気を保ったままではあるが、荒々しさを伴って、戦争の悲劇を想起させる。
録音も意外と数がある。歌曲としてピアノ伴奏で歌うものがほとんどの中、オルガン伴奏で歌っているものもある。プーランクが言うような田舎の教会での祈りを思わせる。アンネ・ゾフィー・フォン・オッターとヘーズヴィ・ロンメルの2つ、記事最後に貼っておくので、ぜひそちらのバージョンも聴いてみていただきたい。
古い教会の祈りの音楽を模した様式ながら、20世紀の世界の危機を完璧に反映する音楽になっているのは、プーランクらしい絶妙なバランス感覚がなし得たものと言えるだろう。ユーモアとシリアスの両面を持った作曲家らしいバランスだが、ここでは二面性というよりは、やはり中世だろうが現代だろうが変わらない人間の強い思い、共通したものを見出したことが、この曲の魅力であり核心であることに違いない。87年後の一人のリスナーとして、僕もまた今、同じ気持ちを抱いている。
なお、同じ詩を用いてフロラン・シュミットが作曲しており、そちらは「3つの二重唱曲 作品136」の第2曲Ballade pour la paix、1957年の作品。録音は見当たらなかったがIMSLPにはあるので興味のある方はぜひ。

A Simple Song
Anne Sofie Von Otter

Forlen os freden
Give peace in our time, o lord


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Author: funapee(Twitter)
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