サリヴァン 弦楽四重奏曲:この日々の先なら好きになれるはず

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サリヴァン 弦楽四重奏曲 ニ短調

アーサー・サリヴァン(1842-1900)の曲を取り上げるのは2012年以来だ。ギルバート&サリヴァンとして一世を風靡する前の作品、チェロ協奏曲(1866)について書いたんだった。良い曲なのでぜひ聴いてください。

チェロ協奏曲はサリヴァン24歳の作品で、今回取り上げる弦楽四重奏曲はもっともっと若い、16歳か17歳頃の作品。なぜこれを選んだかというと、今年は同じ英国の作曲家、エルガーの若書きの作品を取り上げたからだ。エルガーの方も2012年以来の記事更新だった。↓はエルガーが15歳と16歳のときに作曲したものだ。

エルガーは1857年生まれ、サリヴァンの15歳年下である。エルガーが音楽家として活動し出す頃にはすでにサリヴァンは音楽界の大物だった。両者は1889年に若干ニアミスのような形で会っており、エルガーが自作の試奏をするタイミングで突如サリヴァンがやってきてリハを始めてしまい、エルガーは演奏できなかったとのこと。しかしエルガーはサリヴァンを尊敬していたので気に留めなかった。時は流れて1898年、再び二人が出会った際にエルガーはそのときのリハの話をすると、サリヴァンは「言ってくれたら良かったのに!」と恐縮したそうだ。この年の年末、エルガーはサリヴァンに宛てた手紙で「1898年の幸せな出来事の中でも特に嬉しかったのは、あなたにお会いできたことです」と書いている。


そんなサリヴァンは、若い頃にライプツィヒ音楽院で学んだ経験を持つ。父は軍楽隊の隊長で、幼いサリヴァンはその影響で多くの楽器に触れ、また王立礼拝堂の合唱団にも入って活躍した。彼の歌声は評判で多くのソロを歌う機会を得て、非常に称賛された。1853年にはメンデルスゾーンのエリヤも歌っている。そのおかげ、だけではないだろうが、サリヴァンは1856年に英国メンデルスゾーン奨学金の初代受賞者としてライプツィヒ音楽院へ留学した。1856年といえばシューマンの没年である。またメンデルスゾーンがライプツィヒ音楽院を開設したのが1843年なので、1856年はまだ開校13年目。そのくらいの時代の話。なお、この奨学金は長く続いており、受賞した有名な音楽家としてはダルベール(1881)、アーノルド(1948)、ファーニホウ(1968)らがいる。
10代のサリヴァンがライプツィヒ音楽院時代に書いた作品がこの弦楽四重奏曲(1858/1859)だ。かつては紛失したものとされていたが、1990年代にオックスフォードの書店で古い楽譜の箱の中から発見され、2000年に出版された。録音もおそらく冒頭に貼ったSOMM盤(ヨーマンズ弦楽四重奏団の2001年録音)しかない。詳しくはわかっていないが、この弦楽四重奏曲はライプツィヒ音楽院の学友だったバーネット姉妹に贈ったと考えられている。クララ・バーネットとロザモンド・バーネットは英国の良家から留学してきた学生で、クララはサリヴァンを慕っていたようだが、サリヴァンはロザモンドに気があった模様。1859年にロザモンドのために歌を書いて贈っている。

ロザモンド・バーネット。画像掲載元:Gilbert and Sullivan Archive

このニ短調の単一楽章の弦楽四重奏曲は、何も知らない人が聴いたら間違いなくドイツの初期ロマン派作品だと確信するくらい、当時のライプツィヒの楽派らしい音楽である。まあ、さらっと流して聴けばなんのことはない、よくあるクラシック音楽の弦楽四重奏曲で、10分そこそこの小品だ。しかし、メンデルスゾーンもシューマンもすでに亡くなり、ブラームスが活躍し始めたばかりのこの時期におけるライプツィヒの流れを汲む室内楽というと、実は他にあまり無い。1860年にブラームスが弦楽六重奏曲第1番を書いているが、それ以外となると有名どころではまず見当たらない。あるとしたらバルギールくらいかな。バルギールも素晴らしい音楽を残しているので、いずれブログに書こうと思う。
そんな時代に、英国からの留学生が書いた弦楽四重奏曲がこれだけ立派にドイツ・ロマン派流の音楽で、しかもブラームスの作風ともまた異なる独特の刺激や爽やかさ、明るさが感じられる音楽となると、これはなかなか面白いと思う。序奏後に登場するチェロの朗々たる歌も心地よい。全体的には、もはやベートーヴェンまで遡っても納得できるような、溌剌としたエネルギッシュな音楽ですらある。
僕はそこまでサリヴァンの音楽に詳しいわけではないが、それでも後のサリヴァンの音楽の萌芽とも取れる手法がこの弦楽四重奏曲からも見て取れるだろう。言葉で説明するのは難しいが、フレーズ内のリズムを和音でジャン!ジャン!と強調していくようなところなど、いかにもそれらしい。もっと相応しい言い方があると思うんだけど、素人なのでそんなとこが限界かな……まあこの曲を聴いてから、サリヴァンの序曲集などを聴いてみてもらうと、何となく理解してもらえると思う。

Sullivan: Overtures
サー・ネヴィル・マリナー & アカデミー室内管弦楽団

サリヴァンが弦楽四重奏の形式で書いたのはこの曲の他、同じアルバムに入っているロマンスしかない。後者はサリヴァンが母に捧げた作品。他の初期作品、室内楽曲や器楽曲も素晴らしいのでぜひ聴いてほしい。サリヴァンの音楽の本領はもちろん劇音楽だが、それらの吹奏楽編曲やオルガン編曲は多くても、意外とピアノ・ソロや弦楽四重奏など、器楽や室内楽アレンジはない気がする。こういう初期作品と、人気作のアレンジなどを合わせたコンセプトで演奏する音楽家の登場に期待したいところだ。


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Author: funapee(Twitter)
都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more

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