コダーイ 夕べの歌:待てしばし やがてなれも憩わん

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コダーイ 夕べの歌

2025年最後の楽曲紹介記事はハンガリーを代表する作曲家、コダーイ・ゾルターン(1882-1967)の曲にしよう。というのも、今まで一度もコダーイの曲でブログ書いたことがなかったからだ。2008年からやってるのに、2025年で初登場って、すごいね。コダーイに深くお詫び申し上げたい。
取り上げていなかったことには結構前から気づいていて、時間のあるときにちょっと気合い入れて大好きなハーリ・ヤーノシュについて書こうかなと思いつつ、結局書いてないという……。今月はコダーイのブダヴァリ・テ・デウム(ブダ城のテ・デウム)やハンガリー詩篇の新しい録音(ローレンス・フォスター指揮トランシルヴァニア・フィル&同合唱団の2022年録音)を聴いて、コダーイのブログ記事を書いていなかったことをまたしても思い出したのだ。もう何度も思い出しては書かず、思い出しては書かずの繰り返し。ここでそのループを断ち切ろう。


ということで、年末だし、短い作品を一つ紹介して罪滅ぼし。清々しい気持ちで新年を迎えましょう。今回は合唱曲「夕べの歌」(Esti dal)である。歌詞はハンガリー語(マジャル語)、短いけれどとても美しい歌だ。おそらくコダーイの合唱作品の中で最も有名なのではないだろうか。民謡を元にしており、児童合唱から女声も男声も、その他のアレンジも含めたら様々なバージョンで愛されている名曲だ。歌詞は以下。

Erdő mellett est vélëdtem,
Subám fejem alá tëttem,
Összetëttem két kezemet,
Úgy kértem jó Istenëmet:

Én Istenëm, adjál szállást,
Már mëguntam a járkálást,
a bujdosást,
Az idegën földön lakást.

Adjon Isten jó éjszakát,
Küldje hozzám szent angyalát,
Bátoritsa szívünk álmát,
Adjon Isten jó éjszakát,

森のはずれで夕暮れに
マントを頭の下に置き
私は両の手を組んで
善き神に祈った。

神よ、どうか休息の場を与え給え。
私は彷徨い疲れてしまった。
隠れることにも、
異人として、異郷の地に。

神よ、どうか善き夜を与え給え。
聖なる天使を送り給え。
心の夢を満たし給え。
神よ、どうか善き夜を与え給え。

この詩の主人公は誰なのか。国を追われて放浪する旅人だとか、オーストリア=ハンガリー帝国のために戦う若い兵士だとか言われる。元はハンガリーの民謡で作詞者も不詳だが、ゲーテの「さすらい人の夜の歌」に近い詩だとよく指摘されている。確かにかなり似た内容である。この元の詩は1878年にハンガリー南部のセゲドで出版された詩集に収録されていたというから、ゲーテの死後50年弱の頃にはすでにはっきり存在していたことがわかる。もっと前から伝承されていたとしても、ゲーテ詩が由来なのかそれとも関係ないのかどうかは謎である。ゲーテと関係ないとしたら(多分ないよね)、名もなきハンガリーの詩人が文豪ゲーテに匹敵する詩を書いて、それが当地で民謡として歌われていたという事実だけでも興味深いものだ。
コダーイがこの民謡を収集したのは1922年。合唱曲として再編し1938年に初演している。録音も多くあり、ウィーン少年合唱団やキングズ・シンガーズの録音もあるので、それだけ広く知らているということだ。

天使の歌声 <最新ベスト2012>
ウィーン少年合唱団

ポストカーズ
キングズ・シンガーズ

ソプラノがメロディを歌い、下の三声がハミングで伴奏。ABAの構成で、Bの部分になると下の三声も重ねるように祈りを歌う。民謡のメロディの美しさもさることながら、このハミングの伸ばしが重要だろう。これが静謐さを生むのだ。録音では常に完成されたものを聴くことになるわけだが(当たり前だ)、きっと生演奏で聴くと、こういう部分こそ緊張感があっていっそう胸に響くのだと思う。
歌詞の内容としては男声で歌うのが一番それらしい気がする。夕暮れから夜になる森の中の絵が浮かんでくる。しかし音楽としては、女声や児童合唱の方が抜群に美しく調和するように思う。つまりは、どんな人でも良いということだ。身体的であれ精神的であれ、程度の大きさも小ささも関係なく、全ての「彷徨う人たち」が聴くべき音楽だからこそ、広く愛されるのだろう。彷徨い、休息を求め、祈る。どんな人でも、どんな場面でもいい。そんな祈るような思いを、この曲と重ねて聴いてみてほしい。
基本はアカペラだけども、ピアノ伴奏を少し入れるとまた、ぐっと濃い味が出て面白い。そんなの無粋だ、不要だ、アカペラこそコダーイの真意だと言い切ることもできなくはない。だが手垢のついた手法の伴奏だろうと、たまに聴くと不意打ちのように感動しちゃう、なんともチョロい自分に気づいてしまう。ソロ歌手とピアノ伴奏なんかもそうだね。

Freezing
Emily D’Angelo, Sophia Muñoz & Bruno Helstroffer


ちょっと意外なところでは、ギターと弦楽四重奏の編曲もある。これも良い。静謐な雰囲気がよく出ている。特にギターと弦楽四重奏のメロディが交代するところや、ギターがメロディに絶妙なハモリを入れてくるところなど、やることはシンプルだけど実に巧みなアレンジ。さすがは長く歌い継がれてきた旋律だけあって、その力を十分に堪能することができる。

Cross The Line
Csaba Szabó & Accord Quartet

とはいえ、クリスマスの季節なので、やはりアカペラ合唱で味わってから色んなバージョンを聴いてみてほしい。冬の澄んだ冷たい空気にも相応しい合唱の響き。冒頭にメトリーズ・ド・トゥールーズの録音を貼ったのも、透明感のある合唱とこの白樺の写真、音楽と写真の雰囲気が本当によくマッチしているからだ。
寒い時期だけど風邪など引かないように、音楽を聴いてゆっくり休みましょうね。おお神よ、これを読んでいる皆さんにどうか、良い休息を与え給え!


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都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more

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