ハイドン 交響曲第49番「受難」:それはそれで楽しい

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ハイドン:交響曲第26, 35, 49番

ハイドン 交響曲第49番 ヘ短調 「受難」


ハイドンの交響曲において、短調の曲というのは非常に少ない。「受難」の他に、「告別」や「哀悼」が有名だ。僕も実際のところ好んで長調の曲を聴く。
というのは勿論、僕のような楽観的な人間にとって、明朗な長調の音楽を聴く時間はまさに至福のひと時、日常から解放され音楽の世界にどっぷりと浸かれば、心も体も癒されることこの上ないからだ。
それはモーツァルトやプーランクでも同じことで、やはり長調の曲を選ぶことが多い。
だがモーツァルトにしてもプーランクにしても、そしてハイドンにしても、短調の曲にはまた違った良さがある、などと言ったら少し幼稚に聞こえるだろうか。
違った良さというよりは、違った意味合いというもっと客観的なところに目を向けてみると、今度はその曲の持つ意味合いが、主観的な自分の感性といったところに影響を与えてくるんだから不思議なものだ。
長調短調は、作曲家にとっての、そのときの思いや情感、宗教や社会状況などが色々関わって決定されるのだろうが、ハイドンのこの「受難」は、100%宗教色のあるものかというとやや疑問が残る。
ハイドンの交響曲を捉える際の副題の果たす役割というのは、以前ちょっと考察してみたのだが、まあなかなか簡単にまとまるものではないし、この「受難」もまた、後の人が付けたものとされる。
この曲はいわゆる「疾風怒濤の時代(シュトゥルム・ウント・ドラング)」の作とされ、1768年に完成した。
ハイドンには珍しい「緩・急・緩・急」という構成で、これは「急速な序楽章・緩徐楽章・舞曲楽章・急速な終楽章」というよくあるハイドンの交響曲のパターンとは全く異なる。


「疾風怒濤の時代」と、ハイドンの短調の交響曲、そして「受難」、これらの間にはどういう関係性があるのだろうか。少し見てみよう。
ゲーテの「若きウェルテルの悩み」に代表されるこの文芸運動は、理性に対する激しい感情の勝利が特徴だが、この時期のハイドンの交響曲は短調の存在も含め特異である。
感情の表出が激しいのは、一聴すればすぐにわかることだ。特に揺るぎない2楽章、駆け抜けるような4楽章は本当にそう感じる。ヘ短調であることがさらに感情の激しさを高める。
だが、どうもこの文芸運動は、ハイドンの一連の交響曲完成の後に起こったもののようである。「若きウェルテルの悩み」が1774年、シラーの「群盗」は1781年、これらからわかることは、この文芸運動が直接ハイドンに影響を与えたのではなく、むしろハイドンの音楽は先駆的なものであったようだ。
「哀悼」や「告別」も1772年の作で、やや早い。しかし、それでもハイドンの短調交響曲が、「疾風怒濤の時代」のものと言うに足る十分な証拠として、この激しい感情の音楽があることはまた事実である。
ハイドンはどういう経緯でこの曲を作ったのだろう。「受難」というのは、この曲の重苦しい1楽章を聴けば誰もが納得する。スコアの最後に神への感謝が書かれていることから、受難週のものと見られ、この愛称が付けられたという説もある。
これは教会で演奏されることを想定していたのかもしれない。そういった空間の広がりを感じることが出来るのは1楽章と3楽章である。敬虔な響きさえ感じてしまうのは、愛称に引きずられているせいか、それとも音楽そのものに何かあるのか、ちょっとわからない。


さて、ここまで見てきて、僕にはさっぱり何もわからないのだが、ともかくハイドンの交響曲というのは実に考え甲斐のある音楽である。
ハイドンの音楽は、どんな音楽よりも増して、何も考えないで聴いても本当に楽しめる音楽なのだ。だからこそ、こうやって聴いていないときくらい、少し考えを巡らせた方が良いのかもしれない。答えはなかなか見えないが、それはそれで楽しい。

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