エスプラ 南のソナタ:情熱的なヴァーミリオン

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エスプラ 南のソナタ 作品52

オスカー・エスプラ(1886-1976)はスペインの作曲家。アルベニスやグラナドスの次世代、トゥリーナの少し年下で、ロドリーゴと同年代だ。イベリア半島の東岸、地中海に面したレバンテ地方のアリカンテで生まれ、地元の名前を冠した作品「レバント組曲」が1911年にウィーンの作曲コンクールに入賞。審査員を務めたリヒャルト・シュトラウスは「セザール・フランク以来に書かれた最も偉大かつ決定的な作品の一つ」と評したそうだ。そんな高評価された作品も、今ではなかなか録音に出会えない。セゴビアが抜粋で編曲してるのがそれなのだろうか。ぜひオーケストラ録音も聴いてみたいものだ。

Great Master
Segovia, Andres (アーティスト)


1936年、エスプラはマドリード国立音楽院の理事に任命されるも、スペイン内戦を理由に祖国から逃れ、一家揃ってベルギーへ移住。ベルギーでは当時ナチスの支配下にあった新聞社ル・ソワールで働いたため、エスプラは戦後も帰国が叶わず、スペインに戻れたのは1951年とのこと。それでも故郷の音楽を意識した作品を書き続け、自身のスタイルを確立し、帰国後も活躍した作曲家だ。

先日、マーティン・ジョーンズというピアニストがNimbusレーベルに録音したエスプラのピアノ作品集を聴き、いわゆる「派手で極彩色のスペイン」という印象とはまたちょっと異なる、どこか古風で穏和で内省的な響きに聴き惚れ、有名スペイン曲とはまた違った味わいがあってエスプラ作品も良いなあなんて思っていた。録音の数は少ないので、オーケストラ作品は聴けないかなと思っていたのだけど、調べていたらどうやらEMIスペインの“Grandes Compositores Españoles”シリーズに録音があると知った。また、オーケストラ作品は収録されていないものの、ピアノ協奏曲的な作品であるこの「南のソナタ」は各種サブスクで配信されていることにも気づいた。ということで、多くの人がすぐに聴けるであろう「南のソナタ」を、ぜひオススメしようとブログを書いている。「南のソナタ」、原題はSonata del sur、この曲もまた他のスペイン作曲家とはちょっと色合いの違う、それでもソロ曲よりずっと明快で情熱的で、技巧的にも多彩な、本当に美しい曲だ。

配信されているのはアリシア・デ・ラローチャ独奏、ラファエル・フリューベック・デ・ブルゴス指揮スペイン国立管の1965年録音。記事冒頭の画像のもの。僕の大好きなピアニストの一人、マルセル・メイエの録音も残っており、こちらはエスプラ自身の指揮とスペイン国立管による1953年録音(↓のリンク)。あとはアントニオ・イグレシアスが独奏、エスプラ指揮スペイン国立管の1976年のLPがあるようだ。イグレシアスのもの以外は配信・CDで聴けるのでぜひ。そういえば最近「ラヴェルはフランスというよりスペインだ」というような内容の文言を見かけたが、ラヴェルのピアノ協奏曲が好きな人にこそエスプラの「南のソナタ」を聴いてほしい。きっと共通するものを見つけられると思う。

Marcelle Meyer: Complete Studio Recordings, 1925 – 1957
Maurice Ravel (作曲), & 9 その他


1935年にピアノ独奏版を作曲、その後改訂されて1945年に完成。元々はスペインで書き始め、亡命後のベルギーで改訂したということになる。それもあってか、スペインで生まれベルギーで活躍したピアニスト、エドゥアルド・デル・プエヨに献呈され、1945年10月11日にフランツ・アンドレ指揮フランス国立管と共にシャンゼリゼ劇場で初演された。
3楽章構成で25分ほど。第1楽章はAllegro non molto、色鮮やかな木管の音色が「南」へ誘う。堅苦しい枠から出て自由に舞う音楽にも聴こえるが、タイトル通りソナタ形式、オーケストラがやや古典的な第一主題を奏でると、ピアノが再現。第二主題はピアノから、こちらの主題はぐっと後期ロマン派風だ。オーケストラはさらに鮮やかな色彩をもって展開させていく。華やかでありながら、どこか内省的な趣きも同時に存在している、ちょっと不思議な印象である。
2楽章はAndante liturgico、祈りの音楽のようだ。古代スペインの典礼のリズムだそうだが、静謐さに加えて、映画音楽のようなスペクタクルがある、さながらコルンゴルトの協奏曲。曲半ばに来るクライマックス、この高揚感、圧巻である。この楽章の芯となる典礼的な音の流れは確かに存在するが、そこに見るテクスチャ、散りばめられたキラキラ輝くアクセサリ、音の玉手箱状態。アタッカで3楽章へ。
3楽章はAllegro alla marcia、パソドブレのテンポで、とも記されている。スペインの舞踏精神が行進曲風に展開する楽章。プロコフィエフの協奏曲を思い出すような、諧謔的なところもある。突如弦楽が高貴かつ甘く愛らしい雰囲気を醸し出したり、かと思えば太鼓とラッパで進軍したり。カスタネットやタンバリンなどの打楽器も活躍し、最後はラヴェルのラ・ヴァルスのようだ。当時ブリュッセル音楽院の院長であった作曲家のマルセル・ポートは、終楽章についてLa Nation belge紙で次のように評している。

「終曲のAllegro alla marciaでは、イベリア気質の活力と喜びが、きらめくような輝きのソノリティとなって炸裂する。ソリストのヴィルトゥオジティは、オーケストラのヴィルトゥオジティとともに饒舌に溢れ、この音楽の悪魔的なリズムは、Andante楽章の真面目で剥き出しで尊い言葉の後に、終楽章全体に抗しがたい生命を吹き込む。」

ソナタの体は保っているが、構造の美しさ以上に、瞬間瞬間の美しさが光る。それが地中海らしさ、南のメンタリティなのかもしれない。民謡などは用いておらず、エスプラの高い創造性がなしえる、独自の方向性を持ったスペイン音楽に仕上がっていて、とても素敵だ。
初演者デデル・プエヨは各地で再演し、デル・プエヨ以外では、マドリードでアタウルフォ・アルヘンタ指揮スペイン国立管と共に、アルド・チッコリーニが演奏した記録がある。またアルヘンタはマルセル・メイエとも共演したそうだ。ラローチャもメイエも素晴らしい演奏だが、いかんせん古いので、今のピアニストにはぜひ、最新の録音環境でチャレンジしてほしい。クリアで色彩豊かな演奏を聴いてみたいものだ。


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Author: funapee(Twitter)
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