このコンサートのチケットを予約してから、諸々の旅行の手配をしたので、このためにウィーンに来たと言っても過言ではありません(笑) コンツェルトハウスは外観も綺麗で、内装はさらに綺麗でした。階段付近からはレッドカーペット。ホールも豪華絢爛、楽友協会ホールに見劣りしません。
プログラムは以下。
【ウィーン・フィル コンサート・イン・コンツェルトハウス(Konzert im Konzerthaus)】(2013年9月26日)
チャイコフスキー 組曲第3番 ト長調 作品55
ショスタコーヴィチ 交響曲第5番 ニ短調 作品47
指揮:ロリン・マゼール
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
マゼールはチャイコフスキーの組曲第3番が好きなようで、2012年にN響で客演したときにもこの曲をやっています。そのときにマゼールは、この曲こそが、大作の陰に埋もれてしまっている隠れた名曲の好例だという趣旨のことを語っていたそうです。そしてまた、マゼール自身が、この曲のヴァイオリン・ソロはチャイコフスキーが書いた旋律の中で最も美しいと感じるとのこと。全くその通りですね。チャイコフスキーが交響曲を書くのに葛藤して苦悩した末に組曲を生み出したことは、僕も別のエントリーで書きましたが(組曲第3番のページはこちら)、心を打つ旋律、交響曲に繋がる構成の美しさなど、魅力の大きい作品です。そして何より、楽友協会に負けず劣らず美麗で豪華な装飾を持つコンツェルトハウスというロケーションで、このロマンティックな音楽に浸れるというのが僥倖でした。コンマスはライナー・ホーネックで、もちろん彼がソロのパートを務めるのですが、この曲はキュッヒルよりもホーネックの方が似合っているかもしれませんね。かなり前列で聴いていたおかげですが、ソロを弾く(ソロ以外もですね)ホーネックの、心の底から音楽を楽しんでいるような表情は忘れられません。演奏は言うまでもなく、艶やかで天下一品でした。マゼール指揮ウィーン・フィルによる同曲の録音がアンセルメ指揮スイス・ロマンド管の4番とのカップリングであります。この録音が生で味わえた、非常に幸福な時間でした。
後半はショスタコーヴィチの交響曲第5番。この演奏会のチケットを取るときに、ウィーン・フィルのホームページを見ていたのですが、そこでこの曲が、Symphony No. 5 in D minor, op. 47, „Das Werden der Persönlichkeit“(“The Becoming of Personality”)という風に表記されていました。Das Werden der Persönlichkeit、これは「人格の生成」とでも訳せば良いのでしょうか? 確か会場で買ったプログラムにはこのように書いていなかったので、これはウィーン・フィルの意図なのかマゼールの意図なのかわかりかねるのですが、このような表記は初めて見ました。この表記に関する詳しい情報をお持ちの方はぜひともご教示願いたいところです。僕もヴォルコフの著書『ショスタコーヴィチの証言』などを探してみたのですが、どうも見つからず。しかしまあ、作曲当時のソ連を思えば、厳しい監視社会の下で、ショスタコーヴィチが全力で一個の個人、裸の自分、真の人格を、全身全霊で主張している音楽だと言えないことはないはずです。演奏も、マゼールらしい気色悪い(もちろん良い意味で、です)解釈で、2楽章のテンポの揺らし方や歌わせ方も独特なものでしたし、何より終楽章の最後の最後にrit.しないでそのままゴールに突っ込んでいったのには、客席の多くの人が驚いたんではないでしょうか。ブラボーもなく、狐につままれたように、どよめきと拍手が起こっていました。これが“Das Werden der Persönlichkeit”を表現する演奏だったのか、はたまた何の関係もないのか、僕にはわかりません。
演奏会後、コンツェルトハウスの外観はおしゃれにライトアップされていました。一々おしゃれで、やっぱりヨーロッパって素敵だなあとうっとり。
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都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more