普段全然、都響とか聴きに行かないんですけど、行くときは大体このCシリーズという平日昼の演奏会だけ。今回もたまたま行ける日がインバル指揮に当たってラッキーでした。エリアフ・インバル御大、88歳。奇しくも小澤征爾の享年と同じ。御大、これからも長生きして活躍してくださいね!
【インバル指揮都響 第995回定期演奏会Cシリーズ】
(2024年2月22日、東京芸術劇場)
マーラー:交響曲第10番 嬰へ長調(デリック・クック補筆版)
指揮/エリアフ・インバル
感想の前に最近思うことを少し。このブログはもう16年目で、楽曲についてのエッセイやコンサート感想、その他諸々書いてるけど、実は案外コンサート感想記事のアクセスが多くて、ちょっと困惑してしまう。というのも、本当に大した感想を書いていないからである。ごく稀に「我ながらこれは良いものが書けた」というものもあるけど、99%は単なる自分用の記録で、マジでしょうもない感想文。だから「大した感想じゃないよー」とTwitterでは明記した上でシェアするんだけど、普段僕が書くクラシック音楽の曲についてのエッセイよりも激しくアクセスがあって驚いてしまう。文章の良し悪し、あるいは音楽の良し悪しとは全く関係なく、とにかく「演奏会の感想」はそれだけで人を引き付ける何かがあるということなのだ。僕は録音や録画をメインに楽しんでいるクラシック音楽ファンであり、ホールに足繁く通うコンサートゴアーではないので「今日の演奏は◯◯のときと比べてどうこう」とか「今日の奏者は◯◯さん絶好調、✕✕さんは不調」とか、そういう詳しい話は一切できないのだけど、それでも良ければ読んでくださいね。何しろこれが2024年初のコンサート訪問でして……最近は演奏会より美術館通いが多い。理由はこの記事で書いています。
まあでも新年一発目(2月だけど)がインバルなんて素敵じゃないか。しかもインバルのマーラー。フランクフルトのCD、よく聴いたなあ。インバルのブルックナーも結構聴いたけど、僕はヴァント派になってから、ヴァントがインバルのブルックナーの音盤のジャケットを見て激高した話を読んで以降ほぼインバルのブルックナーを聴くことはなく(笑) でもインバルのマーラーは好きだった。熱く、胸に来るものがあった。けど、10番はほとんど聴いた覚えがない。ラトル盤はたまーに聴いてたな。正直、意味の分からない曲だと思っていて、昔はあまり興味がなかった。エルガーやブルックナーの補筆版を愛好できるようになってから、ようやく10番クック版も興味が湧いてきたが、それにしても訳の分からない曲だなというのは変わらず。多分補筆どうこうの問題ではなく、個人の趣味の問題かなと思っていた。昔は色眼鏡で見て「こんな補筆なんて偽物だ」とヴァント並みの頑固さで意地張ったりもしたが、何年か前くらいから、この曲の最後の弦楽って普通に感動するなと気づいてから、好んで聴かずとも、聴く機会があるときは素直に聴こうと思うようになったんですよ。楽しみ方を知って楽しめるようになったのは良かったけど、まだ腑に落ちてはない。謎曲である。インバルが解説するように、9番で死を受け入れ、10番ではもう向こう側から人生を振り返って書いてるというのは、結構納得なんですよね。僕はシューベルトの弦楽五重奏曲について、もう完全に向こう側で向こう側のことを書いてるから好きじゃないという旨をブログに書いたけど、似たような感じ。ただマーラーの場合はまだ、向こう側でこちら側のことを書いている分、半分は地に足ついてて共感もできる。ような気がする。
ということで今回の演奏、もちろん凄く上手くて感激だったんですが、インバルってもっとバッチバチに激しい感じをイメージしていたので、若干肩透かしではあった、けど、それはやや客観というか俯瞰というか「距離を置いたような感じ」こそが10番クック版という音楽なのだとインバルが言うんだから、有言実行だったのかなとも思った次第。あまりに荒れ狂ってしまったら、それはそれで盛り上がるだろうけど、違うんでしょうね。あるいはふんわりと、香り芳醇なオケサウンドだったらウィーン風も愉しめるのかもしれないけど、それもまたインバルとしては違うのかな。キリキリに締めたオケで「あれはああだ」「そこはそうだった」と書き記すように描写する、だからこそ表現されたものはあったなあと思います。各楽章でインバルも色々こだわりがあったと思うけど、最後の方は僕が空々しいよなと思っていた再帰はやっぱり空々しく聴こえたし、ひたすら美しい弦楽はひたすら美しく、期待したものを聴けた喜び。それだけでなくて、やっぱり生演奏で聴くと色々な箇所が少し納得するし腑に落ちるわ。それも大きな収穫だった。特にあのバスドラね、録音で聴いていたときはなんやねんこれ、ってずっと思ってたけど、今日は客席で、緊張感で自分の体がこわばっていたのを実感して、ああ、ここは生で聴いたらそうなるわな、だからこそか……と一人で勝手に感動。バスドラの音色も演奏も素晴らしかったからですが。それはそうと、フルートの人、上手すぎませんか。いやー、ぐうの音も出ない圧巻のソロだった。痺れるわ。あとヴィオラのトップの方は今回がラストだそうですね。きっと明日(23日)の公演ではいっそう素晴らしい活躍をなさるのでしょう。
あちら側から、自分の人生(あるいは愛した妻のこと)を振り返って、理想も含めて再構築するなんてさ、やっぱり常人には理解できんわ。でも大分腑に落ちた感はあるわ、とても良い体験でした。やっぱりたまには生音で聴かないとね(笑) まあ、もう少し子どもたちが大きくなってからかな。
マーラー:交響曲第10番 《ワンポイント・レコーディング・ヴァージョン》
インバル(指揮)東京都交響楽団 (アーティスト), マーラー (作曲), インバル (指揮)
マーラー:交響曲第10番(D.クック復元による全曲版)
インバル(エリアフ) (アーティスト, 指揮), マーラー (作曲), & 1 その他
都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more